パレスチナ情報センター

「平和と繁栄の回廊」構想 関連資料

アドリ・ニューホフ/Adri Nieuwhof
2007年9月7日

アグレスコ(Agrexco)社は、イスラエルの国際法及び人権法違反の終結を目標としているイスラエル製品ボイコット国際キャンペーンのターゲットになってきた。たとえば、英国の「パレスチナ連帯キャンペーン」は2007年7月15日にカーメル・アグレスコ社の倉庫(ミドルセックス州)で抗議を行っている。青果輸出業のアグレスコ社は50%をイスラエル国家が所有しており、また、ヨルダン渓谷を含む、すべての入植地における生産量の60〜70%を取り扱っている。「生存ゆえの抵抗、ヨルダン渓谷を見つめて」という報告書が近頃マアン開発センター(MA'AN Development Center)と反アパルトヘイトウォール草の根キャンペーン(The Grassroots Palestinian Anti-Apartheid Wall Campaign)より提出された。この報告書は、素晴らしく肥沃な土地、ヨルダン渓谷で、今も進行するイスラエルによる植民地化について詳しい情報を提出している。この記事は、この報告書に基づき、ヨルダン渓谷におけるイスラエルの違法搾取に焦点を当てる。

想像を絶する規模での土地略奪

ヨルダン渓谷:入植地の写真
(ヨルダン渓谷の入植地)

パレスチナのヨルダン渓谷はヨルダン川西岸地区総面積の4分の1以上、約2,400平方kmを占めている。1968年、イスラエルは3つの入植地をヨルダン渓谷に建設し、それから1980年代までに農業、産業、軍用または宗教を理由にして徐々に入植地を増やしてきた。1990年代初頭から、入植地の数は11から36に拡がり、入植者数は6,200名を超えている。ヨルダン渓谷の50%、面積にして1,200平方kmの土地が入植地によって占領されている。その上、ヨルダン渓谷全域の44%にあたる約1,065平方kmの範囲が、境界線、軍事基地、自然保護区などのいわゆる閉鎖区域としてイスラエルに支配されている。ヨルダン渓谷全域の2%、約50平方kmが、パレスチナ行政とイスラエルの治安管理の合同支配下になっている[いわゆるB地区]。残っているエリコ及びアル・アウジャ地域の85平方km(ヨルダン渓谷全域の3.5%)だけが、パレスチナの管理下にある[いわゆるA地区]。国際居住連合(Habitat International Coalition)は、ヨルダン渓谷全域のたった2%の土地、45平方kmのみが、最終的にパレスチナ人に割り当てられているという厳しい現実を描き出している。さらに、アリエル・シャロン(イスラエル前首相)は、2003年、ヨルダン渓谷は300kmに渡る壁の建設によってヨルダン川西岸地区から隔絶されると発表した。かつてピーク時には35万人のパレスチナ人が住んでいたヨルダン渓谷の現在の人口は、たったの5万2千人へと激減した。

2005年、イスラエルの農業省は、2200万ドルを費やす2年間プロジェクトを発表した。このプロジェクトは、新たに住宅を建設し、農業開発に交付金を支給することによってヨルダン渓谷の入植者数を倍増するというものだ。ヨルダン渓谷への入植者には、無料住宅そして一世帯につき7万平方メートルの土地、加えて2万ドルの長期ローンが与えられる。またこれらの特典以外にも、光熱費、水道代、通信費、交通費は75%免除され、教育、医療、農耕用水は無料で提供される。入植者は生産した農作物を地元の市場(パレスチナの市場も含む)に短時間で運ぶことができ、その上アグレスコ社のようなイスラエル企業によってどこにでも輸出することができる。

写真:イスラエルによって略奪された土地の開発が進むヨルダン渓谷
(イスラエルによって略奪された土地の開発が進むヨルダン渓谷)

対照的な現状

ヨルダン渓谷:破壊されたパレスチナ人の家屋の写真
(破壊されたパレスチナ人の家屋)

これとは対照的に、パレスチナの土地はたとえば、"治安"対策、または、3年間連続で耕作されていない等という理由で押収されている。それが軍命令による封鎖によって、耕作できなかった場合でさえも、だ。エリコと他5つの場所の外側にあったパレスチナの建物はぶち壊された。いくつかのパレスチナコミュニティではいまだに電気や水光熱の設備が来ていない。イスラエル支配下のパレスチナコミュニティーでは、建設許可が下りないために学校や医療施設が不足している。パレスチナの農民は生産物を自由に輸出することができない上、軍事検問所や道路封鎖のため地元の市場にも容易に行けない状態となっている。ヨルダン川西岸にある市場に行こうと思えば3時間も要してしまう。食品包装出荷場を近郊に建設したくても、パレスチナ人にはイスラエル側からの建設許可が下りた例がないため、実現はしない。

2000年以来、イスラエルのトラックがパレスチナ人の農地に行き、パレスチナ農作物の積載をすることは禁止されている。そのかわり、パレスチナ農民は自分たちの農作物をグリーンライン[停戦ライン]上にあるバルダラ-ビサン検問所まで自分達で運ばなければならない。ここで農作物はイスラエルのトラックに積み込まれ、イスラエルの市場へと運ばれる。検問所までの運搬費用が増加しているにも関わらず、農作物の価格には反映されず据え置きとなっている。その為、取引は激減し、エリコとトゥバス地区で失業率が21%まで上昇した。結果として、ヨルダン渓谷に住むパレスチナ人の大部分は貧困ライン(訳注:1日1ドルとする場合と2ドルとする場合がある。ここではどちらを指しているか不明)以下の生活を余儀なくされている。

パレスチナ人水利権の侵害

ヨルダン渓谷は水源に恵まれていて、肥沃な土地である。渓谷の地下には東滞水層と呼ばれる水源があるが、イスラエルはこの水源のパレスチナ人による利用を厳しく制限し、年間5800万立方メートル(利用可能水量の40%)のみの利用を許可している。その上、パレスチナ人は、年間2億5,000万立方メートルの水量を供給できるヨルダン川からの水の使用をも禁止されている。

1967年以来、イスラエルは占領国としての権力を利用して、162の農業用の井戸も隔離し、パレスチナ人が使用することを禁止した。イスラエルはまたパレスチナ人の井戸の建設場所、深さ、水のくみ上げ容積までも支配している。その結果、入植者はパレスチナ人が使える量の6倍もの水を農地で消費している。

繁栄する入植者の農作物

ヨルダン渓谷:入植地の農地の写真
(入植地の農地)

国際人道法は、イスラエルがイスラエル市民を占領下のヨルダン渓谷へ移動させることを禁止している。さらに国際司法裁判所は国際コミュニティーに、イスラエルのパレスチナ入植の支持をしないようにと強く促している。

ヨルダン渓谷におけるユダヤ人入植者の特権を考慮すると、ユダヤ人入植地での農業活動が繁栄するのも不思議ではない。報告書にはヨルダン渓谷入植者による生産物の長いリストが記されている。ナツメヤシの実、ブドウ、柑橘系果物、バナナ、さくらんぼ、メロン、ざくろ、びわ、野菜、玉葱、トマト、茄子、とうもろこしやオート麦、医療用薬草、香辛料そして生花。アグレスコ社はこれらをヨーロッパへ輸出している企業のうちの1つだ。

入植地からの農作物を購入することは、パレスチナ人を犠牲にしているイスラエル経済を強化することであり、また占領自体を儲かるものとさせている。

※著者のアドリ・ニューホフ氏は、コンサルタント及び人権運動家として活動している。

「ヨルダン渓谷を略奪するイスラエル」
原文:Israel plundering the Jordan Valley
Adri Nieuwhof
Sep 7, 2007

翻訳:田村なおみ

(記事中の写真は、すべて日本語版作成にあたり独自に追加したものです)

関連サイト

【掲載写真】

  1. Tubas farm: michaelramallah
  2. その他:PENGON/Anti-Apartheid Wall Campaign Jordan Valley

【地図:ヨルダン渓谷】

ヨルダン川西岸地図ヨルダン渓谷入植地群

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