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2005.01.09

イスラエルは内戦状態

Posted by:早尾貴紀

 いまイスラエルは、ガザ撤退を中心とした「一方的分離」をめぐって、まるで「内戦」の様相を呈してきています。
 昨年シャロン首相が、ガザ地区からのイスラエル占領軍の撤退と入植地の撤去と、を「一方的分離案」として表明して以降、足下のリクード党からも造反が相次ぎ党は二分状態。政界だけでなく、入植者、イスラエル軍、イスラエル市民の中でも意見が二分。しっちゃかめっちゃかの内戦状態に。もう少し詳しいレポートはいずれ「スタッフ・ノート」のほうにアップする予定ですが、時間がかかりそうなので、ここで簡単にだけ報告をしておきます。

「一方的分離」のポイントは4つ。1.経済的なメリットが少ないのに、治安コストが膨大にかかるガザの入植・占領をやめること。2.西岸地区の入植地のいくつかを整理し(不法仮設入植地の撤去を含む)、事実上は主要入植地の恒久化を確立すること。3.それらの入植地をイスラエル側に取り込むように分離壁を完成させること。4.パレスチナ側を和平交渉のパートナーとはみなさず、一切の関係を断ち切ること。
 これは、和平合意を締結することによって二国家樹立を目指すのではなく、一方的にイスラエルがパレスチナ側から欲しい部分を切り取り、効率の悪いところは切り捨てる、というものです。ある意味で、極右の大イスラエル主義(パレスチナ人は追放してガザ・西岸地区すべてをイスラエルに併合することを目指す)と、左派の小イスラエル主義(ガザ・西岸での入植・占領政策をやめることで現イスラエル国家内部だけの安定を目指す)との、中間を行くものですが、折衷案と言うよりも、老獪なシャロンが、自らの極右的拡張主義の内実を左派に支持させるというプラグマティックなものです。
 これによって右派も左派も取り込めるとという判断がシャロンにはあったのかもしれません。しかし、実際にフタを開けてみると、とんでもないことに。

 ガザ撤退切り離しは、主に経済的な理由からだったわけですが、しかし逆に言えば、強硬に入植を支持しているユダヤ人は、経済的な目的で入植しているわけではなく、信念をもって大イスラエル主義を実現すべきであると考えているわけです。退去の補償なんかで動くはずがありません。10万人を動員してガザからエルサレムまで約100kmを「人間の鎖」でつなぐなど、すさまじい撤退反対デモを展開しています。
 大イスラエル主義の入植者らは、政府の入植地とは別に、西岸のあちこちに勝手にトレーラーやプレハブを設置して「不法仮設入植地」をつくり、既成事実を積み重ねていこうとします。主要入植地を恒久化することと引き換えだとはいえ、その仮設入植地をシャロンが撤去するというわけですから、大イスラエル主義者は黙ってはいません。しかも、土地のために殉じることを厭わない百戦錬磨の入職者たちです。屈強・剛腕な者を最前列に並べて、対する国軍は18歳かそこらで徴兵された若造ばかり。不法占拠者とはいえユダヤ人に対して戦車や戦闘機やマシンガンを使うわけにはいきませんから、肉弾戦の攻防は「いい勝負」になってしまいます。乳幼児を人間の楯に使う戦法も用いているとか。しかも相手は、神出鬼没のゲリラ兵。今日撤去されても、明日はどこにでも「入植地」をつくることができます。彼らからすれば、旗ひとつ立てればそこは自陣。
 さらにここ一ヶ月は、入植者らに共感を持つ国軍兵士らが、撤去任務を拒否しはじめました。かつて兵役拒否は、左派の専売特許でしたが、シャロンの「一方的分離」政策のもとでは、右派が兵役を拒否しているのです。入植者協会も積極的に兵役拒否を呼びかけています。もちろん、撤去任務のみの拒否ですが。中には、軍服を着たままで、撤去現場で入植者らの側についた兵士まで出てきており、この問題はさらに深刻化していくものと思われます。
 実は、事情をさらに複雑にしているのは、かつてのシャロンの言辞でした。オスロ合意以降の左派労働党政権下で、野党のシャロンは国軍兵士に対して、政府方針に服従しないように呼びかけていたことがあったのです。和平機運をブチ壊すために。いまになった、この演説テープまで入植者らは持ちだし、いま撤退を進めているシャロン現首相に向かって、「やっていることが、かつてお前が言っていたことと逆じゃないか!」と突き付けているのです。

 こういう状況下で、シャロンは労働党と手を組みました。労働党の支持なしでは「一方的分離」の実現は不可能ということもありますが、しかし内実としては、労働党がシャロンにいいように取り込まれた、ということのように思われます。かつて自分たち左派の持っていた二国家分離の政策の一部が右派的に取り入れられ、その支持を迫られ、自壊をしていった、と。

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