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2005.08.05

バラク提案「さらなる撤退」の真意とは?

Posted by:早尾貴紀

 日経新聞がバラク前首相にインタビューをした記事が掲載されました。日経の独自取材なので、あまり他に見ている人も少ないだろうと思って、紹介しておきます。

イスラエル・バラク前首相「西岸も大規模撤退を」、ガザ完全撤去は評価
【エルサレム=森安健】

 イスラエルのバラク前首相がこのほど日本経済新聞のインタビューに応じ、一カ月後に迫ったガザ地区のイスラエル人入植地の完全撤去については「正しい方向だ」と評価する一方、同時にヨルダン川西岸の入植地からも大規模に撤退しなければならないと強調した。
 現職のシャロン首相が進めるガザ撤退計画によるとガザの全二十一入植地と百二十ある西岸入植地のうちの四つから撤退する。これに対してバラク氏は西岸からも「入植地の数で六十から七十、人口六万人」を対象にした大規模な撤退が直ちに可能だと説明した。
 バラク氏は西岸のほとんどの入植地が手付かずのままであることに懸念を表明。イスラム原理主義組織ハマスなどが西岸に主戦場を移すことを促しかねないと述べた。(日経新聞、05年7月22日)

 簡単にコメントを。 「ガザ撤退」が、実は西岸の入植地の恒久化とワンセットであり、それを隠すために煙幕ではないのか、というのはしばしば指摘されてきたことです。では、このバラク提案は、シャロンの撤退計画に比べて「画期的」と言えるのでしょうか。おそらくそうとは言えないでしょう。基本的には、シャロンの西岸入植地恒久化の路線と同じです。バラク提案は、「より効率的な入植政策を」と言っているように思われます。
 シャロンが西岸から4つだけまず撤退を決めたのは、それらが周囲から孤立しており、極めて小規模で人口が少なく、そこに兵士を割いて警備に当たらせるのが、ひじょうにコストパフォーマンスが悪いから、ということに他なりません。そして、程度の差はあれ、そういった状況にある入植地は他にもたくさんあります。バラク提案は、「他にも効率の悪い入植地はある」と言っているだけのことです。そしてその真意は、シャロンと同様に、一部の撤去と引き換えに、西岸の主要な入植地を既成事実化・恒久化するというところにあります。そのことには、細心の注意が必要です。
 もう一つ。なぜいまバラクがこういうことを言っているのか。これはバラクが政権復帰を強く狙っているということです。かつて労働党ではもっとラディカルな撤退を訴えていた「和平派」ミツナが党首から引きずり降ろされ、いまはペレスが当座をしのいでいますが、ペレスはすでに「過去の人」であり、ペレス体制でリクードに勝って政権復帰をすることは見込み薄。そこでいまだに権力欲を燃やすバラクが、シャロンの撤退案を批判し差異化をはかることで、自分の存在意義をアピールするパフォーマンスに出た、ということなのでしょう。
 いずれにせよ、シャロン案であれ、バラク案であれ、入植地の恒久化が目的であるという点には注意が必要です。

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