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2006.04.11

ガザの混乱(ハマス対ファタハ?)/追記:党派組織について

Posted by:情報センター・スタッフ

 ガザ地区へのイスラエル軍の攻撃がしばらく続いており、この数日の死者だけでも18人に達しています。死傷者の中には子どもも少なくありません。イスラエル軍は、「パレスチナの武装組織の拠点が民家と接しているのだから、巻き添えはやむをえない」と、無関係な民間人を殺傷したことを認めつつも、自己正当化をしています。
 イスラエルが攻撃を強めている直接的な要因は、ガザ地区からイスラエル領に向けたカッサム・ロケット攻撃が増えているためです。攻撃をしているのは主にファタハ系の武装組織で、それに対しハマス政権が攻撃の自制を求めているのを、ファタハが拒否しロケットを飛ばし続けている、という構図です。これは、パレスチナ議会選挙でハマスが勝利する前には見られなかったものです。むしろ逆に、ファタハ中心の自治政府がイスラエルと交渉をするのを、ハマスの側が妨害するために自爆やロケット攻撃をする、ということを繰り返してきました。イスラエルは、当時の自治政府に対して(無理を承知で)取り締まりを求め、しかしハマスが攻撃をやめないことをもって、自治政府との交渉を打ち切り、自治政府や各党派やパレスチナの人びとに対して、広く「集団懲罰」的に「報復攻撃」を加えたのでした。

 それがいまでは逆の構図になっています。ハマスは、選挙のしばらく前から、自爆も含めてイスラエルに対する武力攻撃を自粛していました。政権獲得後はもちろんいっそう現実路線を選んでいます。逆に、選挙に負けたファタハが(ファタハ全体が公的にやっているのではないにせよファタハの下部組織が)、ハマスの混乱を狙って、イスラエルへの武力攻撃を強めています。
 先月30日には、しばらくぶりにユダヤ人入植地で自爆攻撃がありました。入植者4人が殺されましたが、犯行声明はファタハ系組織から出されました。そしてその前後から、ファタハ系組織によるガザ地区からのカッサム・ロケット攻撃が頻繁に行なわれるようになりました。
 カッサム・ロケットは、しかし、ひじょうに精度の低い粗末な武器であることが知られています。飛ぶ距離は短く、しかもどこに落ちるか分からない。もちろん、たまたま民家を直撃すれば死傷者を出しますから、ロケットを飛ばすだけも十分に犯罪的です。ただやはり、戦略的にはまったく有効でないどころか、無意味です。たんなる党派のパフォーマンスでしかありません。だけれども、それと引き換えにパレスチナの人びとが巻き添えで受ける被害は、今回のガザ空爆からも明らかなように、甚大です。各党派はそれを承知で、党派利害を最優先して、つまり今回はハマスの足を引っ張るためにファタハがやっているわけですが、ロケット攻撃をしているのです。(こうしたことは、自爆攻撃についても同じことが言えるでしょう。道徳的にも戦略的にもマイナスでしかない、党派利益のパフォーマンスです。)

【追記】
 今日もファタハ系武装組織アル・アクサー殉教団とイスラーム聖戦による自爆攻撃がテルアヴィヴであり、少なくとも9人が死亡、60人以上が負傷しました。これが事態をよくするために効果的だとはとても思えません。
 なお、自爆攻撃と党派組織の関係については、映画『パラダイス・ナウ』がテーマとしているものです。 その映画評 もこの問題を考える上で参考になります。

【追記2】  12月に入り、ハマス対ファタハの内戦的混乱が再燃しています。これを機に、スタッフ・ノートに、 「ハマス対ファタハの内戦?ーー問題点の再整理」 (早尾貴紀)がアップされました。併せてご参照ください。(12月30日)

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