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2006.04.24

オリーブ山のアパート売却者、「裏切り者」として殺害――その驚くべき報道をめぐって

Posted by:情報センター・スタッフ

 詐欺同然のいかがわしい手続きで強引にアパートが買収されてしまったのだが、パレスチナの側から見れば、東エルサレムのなかでも旧市街のそばのオリーブ山へ初めてのユダヤ人「アウトポスト(前哨基地)」を許してしまう行為なわけであり、それは最悪の「裏切り」、対敵協力となる。買収された直後から、元の持ち主は身の危険を感じていたが、12日に何者かに誘拐され、翌13日朝に西岸地区エリコで殺害された遺体となって発見された。激しい暴行を受けた上に、銃弾数発を打ち込まれていた。
 これまでも、ユダヤ人に土地を売却したパレスチナ人(イスラエル国籍の者であれ、東エルサレム居住の者であれ、パレスチナ自治区の者であれ)が、裏切り者として報復的に殺害をされるということは、しばしばあった。そのために殺されたパレスチナ人の数は、数十人になると言われる。 「映画『コラボレーター』の描いたこと」 (Staff Note by 早尾)にもあるように、土地売却以外にも情報提供などさまざまな形で、イスラエル側に(意に反してであれ)「協力」をした/させられたパレスチナ人は、見せしめ的に処刑をされることが多い。

 今回の一件は、加えて、オリーブ山という象徴的な場所で初めてユダヤ人へ建物の売却がなされたということもあり、メディアでも注目されていた。ハアレツ紙は、買収があったときから家主の殺害のときまで、こまめに経過をフォローしつつ、淡々と事実を伝えている。つまり、本人が取引を拒否しているにもかかわらず、唐突に大金を突きつけたり、知らないうちに年老いた母親にサインをさせるなどの、強引でいかがわしい「買収」であったことも明記してある。
 驚くべき(あるいは右派紙としては当然かもしれない)論評記事を出したのは、右派英字紙で知られる「エルサレム・ポスト」。18日付けで出された記事では、冒頭で「建物の売買取引があった」というだけの「事実」を記した直後から、記者(カロリーヌ・グリック)の「分析」を装った、恐るべき倒錯したプロパガンダが展開されている。
 曰く、「今回の事件が明らかにしたのは、パレスチナ自治政府が、レイシスト・アパルトヘイト体制であり、基本的人権が否定されている上に、ユダヤ人と平和的に共存しようというパレスチナ人を反逆者として処刑しているということだ」と。さらには、「ユダヤ人と友好関係や商取引を持つことが『犯罪』とされるということは、つまり、イスラエルと一切関係を持ってはならないということであり、したがって、イスラエルとの平和的共存自体を拒否しているということだ」と。
 まさに虚偽のレトリックであり、とても記者本人が本気でそう信じているとは思えないのだが、もしかすると、右派のイスラエル・ユダヤ人のなかには、こうした認識が広まっているのかもしれない。つまり、日頃から、こうしたプロパガンダ的な記事を繰り返し読んでいる/読まされているのだから。

 言うまでもないことだが、東エルサレムも含めて西岸地区は「被占領地」であり、そこへユダヤ人入植地を建設することは、国際法に違反している。国際社会からの度重なる批判にもかかわらず、西岸地区とりわけ東エルサレムの土地や建物を、ユダヤ人が強引に取得ないし収奪することで目指されているのは、グリーンラインを「国境」としたパレスチナ国家の独立を阻止し、パレスチナを永続的に植民地化しておくためである。水源や農地を奪い、主要なパレスチナの町を分断し、パレスチナの政治・経済が自立できないような既成事実を積み重ねるためだ。これこそが、「レイシスト・アパルトヘイト体制」と呼ばれてきたことを、このエルサレム・ポスト紙の記者たろう者が知らないはずがない。間違いなく、自分たちに突きつけられてきたこの言葉を、あえて挑発的にひっくり返してみせたといったところだろう。拙劣なレトリックではあるが。
 また、これも改めて強調するまでもないことだが、イスラエル国内では、まさにイスラエル国籍を持つ、つまりイスラエルの国民であるアラブ・パレスチナ人が、土地取得を厳しく制限されている。「ユダヤ人国家」を謳うイスラエルにおいては、「アラブ系イスラエル人」の経済活動はがんじがらめに規制を受けているのだ。
 この記者の主張は、事実関係に照らしてまったく転倒しており、イスラエルこそが、イスラエル国内においても占領地においても、まったくのレイシスト・アパルトヘイト体制を敷いているのであり、占領地での土地取得そのものがまさにその現れであると言うべきなのだ。侵略者が大量の武器と大金を背景に土足で他人の家に上がり込み占領をしておいて、「平和的共存をしようや!、と言っているのに、拒否をされた。共存したくないのはお前たちの側だ」という「分析記事」が、新聞紙上に出るのだから、イスラエル/パレスチナをめぐる報道に接するときには、本当に注意が必要だ。

 もちろん、「対敵協力者(コラボレーター)」とその処刑の問題については、ひじょうに深刻である。だがそれも、本質的な構図として、イスラエルの側が生み出している問題である、ということは確認しておきたい。

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