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2006.05.08

『現代思想5月号』特集「イスラームと世界」

Posted by:情報センター・スタッフ

 臼杵陽と鵜飼哲による対談「世界化する分離壁に抗して――イスラーム認識とわれわれ」は、ハマス勝利やイスラエル総選挙、分離壁建設など、パレスチナ/イスラエルで進行しつつある諸現象を幅広くフォローした上で、さらに広いパースペクティヴから(臼杵はイスラーム圏全体の動きを、鵜飼は欧米世界の動きをカバー)、議論を展開している。
 早尾貴紀「「民主的世俗的パレスチナ」・「民主的ユダヤ国家イスラエル」・「二民族共存国家」」は、オスロ以降の国際社会の建前としての二国家解決プラン(最初から限界のあるものだったが)が、イスラエルのシャロン新党(カディマ)による一方的撤退と、イスラエルの存在を認めていないハマスの圧勝によって、完全に崩壊・無効が宣言されて以降の、「解決」と「国家理念」について論じている。
 田浪亜央江「「イスラーム運動」の風景――国政選挙前後のイスラエルのアラブ社会から」は、イスラエル国内に市民権(参政権)をもつパレスチナ人、いわゆる「イスラエル・アラブ」の選挙の様子を詳細に観察しながら、「ユダヤ人国家」の内部の民族的マイノリティ(人口の約2割がアラブ・パレスチナ人である)が、いかにして主体的に生存していく枠組みを模索しているのかを丁寧に考察している。

 他に、パレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュへのインタヴュー記事と、イスラエルを亡命した反シオニストのユダヤ人音楽家・作家ギルアド・アツモンのエッセイの翻訳が収録されており、いずれも原則的かつ率直な問題提起をしている。

 一つ、異色ではあるが重要なのは、栗田禎子「加害者は被害者を恐れる――「イスラモフォビア」とその周辺」だ。池内恵という自称アラビスト(アラビア語に堪能でアラブ世界の動向に詳しい)が、イラク戦争以降いっそう右派雑誌と大手新聞に露出し、アメリカの中東政策やイラク戦争を擁護し、日本の参戦を支持しているが、栗田はそのエセぶりを批判している。
 たんなる反イスラームからの戦争支持ではなく、イスラーム世界に詳しいことをウリにしている池内だからこそ、その議論は「説得力」を持つし、だからこそメディアにとって利用価値が高い。池内恵は、偉大な独文学者池内紀の二世という話題性と、外務省・防衛庁人脈の山内昌之や立山良司らのバックアップと売り込みとによって、「論壇の寵児」としての地位を与えられ、御用学者としての役割を十二分に果たしている。しかし実のところは池内の議論は、杜撰なあるいはステロタイプなイスラーム世界への偏見によって成り立っており(曰く、アラブ/イスラーム世界には「民主的な批判の自由が存在しない」「カルト的陰謀論に満ちている」など)、イスラーム研究者としての栗田による池内批判は、ひじょうに重要であり、長く待ち望まれていたものだ。

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