パレスチナ情報センター

Hot Topics

2010.06.05

命を救うために尽力する勇気のない欧米のリーダーたち

Posted by:情報センター・スタッフ

これはマスメディアも同じです。今回のガザ自由船団襲撃に関してまともに報道していないのは、世界で唯一日本だけではないかという気さえしてきます。フィスクのようなジャーナリストは日本にもいないわけではありません。問題はマスメディアという場にそうした視点が欠落していること──以下の記事の「欧米のリーダーたち」を「(日本の)マスメディア」に、「普通の人々」を「正しい意味でのジャーナリズム精神を持った人」あるいは「インディペンデント・ジャーナリズム」に置き換えて読めば、そのまま見事なメディア批判になります。


命を救うために尽力する勇気のない欧米のリーダーたち

ロバート・フィスク
インディペンデント、2010年6月1日

今度こそイスラエルは敗北したのではないか? 死者1400名を出した2008-2009年のガザ攻撃、死者1006名を出した2006年のレバノン戦争、これまでイスラエルがやってきたすべての戦争の上に、昨日の公海上の殺戮が積み上げられて、世界はついに、もはや二度とイスラエルのルールを受け入れることはないと断言できるところに到達したのではないか?

早まってはいけない。

ホワイトハウスが出した腑抜けの声明を読めば一目瞭然、オバマ政権は「この悲劇をめぐる状況の解明に努めているところ」で、イスラエルを非難する言葉はひとこともない。死者9名。中東での膨大な死者数に新たに9という数字が加わっただけのこと──要するにそういうことだ。

しかし、事実は違う。

1948年、我々の政治家──アメリカとイギリスのリーダーたち──はベルリンへの空輸作戦を敢行し、ロシアの非情な軍隊とフェンスに包囲されて飢餓状態に追い込まれていたベルリン市民(つい3年前まで我々の敵だった人々)に食料を送り届けた。冷戦下の偉大な行動のひとつに数えられるベルリン空輸作戦──我らが兵士、我らが空軍部隊は危険を顧みず、飢えたドイツの人々のためにみずからの命をかけたのだ。

信じられないことではないか。あの時代、我々の政治家たちは決断した。我々のリーダーは命を救うという決断を下した。ミスター・アトリー(当時のイギリス首相)やミスター・トルーマン(当時のアメリカ大統領)は、ベルリンが、政治的な観点からだけではなく、モラルと人間の観点からも重要だということを認識していた。

ひるがえって、今日はどうか。ガザに行くという決断を下したのは普通の人々だった。ヨーロッパの人々、アメリカの人々、そしてホロコーストの生存者──そう、まぎれもないナチの暴虐を生き延びた人たち──だった。これはただひたすら、もう長いあいだ、自分たちの代表であるはずの政治家たちがガザの人々を救う決断を下せないままに来たからだ。

昨日、我々の政治家たちはどこにいたのか? 国連事務総長パン・ギムンのあまりに馬鹿ばかしい言葉、ホワイトハウスのあまりに情けない声明、そして我らが親愛なるトニー・ブレア氏の「多くの命が失われた悲劇的な事態に深い衝撃と遺憾の念を覚えている」という発言は耳にした。ミスター・キャメロン(現イギリス首相)はどこにいた? ミスター・クレッグ(現副首相)は?

1948年に立ち返って、もちろん、当時、彼らがパレスチナと同様に、ベルリン市民を完全に無視することもありえたはずだ。結局のところ、イギリスがベルリン空輸作戦を敢行したこととアラブ・パレスチナが破壊されたこととがまったく同時期に起こったというのは、恐るべきアイロニーだと言わざるをえない。

しかし、今や決断を下すのは一般市民だ。平和活動家、その他どう呼んでもかまわないが、事態を変える決断を下すのがごく普通の人 たちであるのはまぎれもない事実だ。我々のリーダーはあまりに臆病で、命を救う決断が下すことができない。これはどういうことなのか? どうして昨日、私たちはミスター・キャメロンやミスター・クレッグから勇気づけられる言葉が聞けなかったのか?

ヨーロッパ人が(もちろんトルコ人もヨーロッパ人だ。そうではないとでも言うのか?)中東の異国の軍隊(イスラエル軍もそのひとつだ。そうではないと言うのか?)の銃弾に撃ち倒されたら、激しい怒りの波が沸き起こって当然というものではないか。

一方のイスラエルにとって、この事態は何を意味しているのだろう? トルコはイスラエルと近しい関係にあったのではなかったのか? これがトルコの望んでいることだとでも考えているのか? 今やイスラーム世界唯一のイスラエルの同盟国だったトルコが、これは虐殺だと言っている。そして──イスラエルは気にかけている様子もない。

このイスラエルの態度はこれまでとまったく変わっていない。偽造されたイギリスとオーストラリアのパスポートがハマースの幹部マフムード・アル=マブフーフの暗殺に使われ、ロンドンとキャンベラのイスラエルの外交官が国外退去させられた時も、イスラエルは一向に気にしなかった。同盟国アメリカ合衆国の副大統領ジョー・バイデンが東エルサレムに滞在していたその時に、イスラエルは何ら気にすることもなく、東エルサレムの被占領地に新しい入植地を建設すると発表してはばからなかった。今さら、イスラエルが何を気にするというのか。

こんな状態に至ってしまったのは、いったいどうしてなのか。それはたぶん、私たちみんなが、イスラエルがアラブ人を殺すのを見るのに慣れてしまったからだ。たぶん、イスラエル人がアラブ人を殺すのに慣れてしまったからだ。そして今、イスラエル人はトルコ人を殺している。ヨーロッパ人を殺している。この24時間で、中東で何かが変わった。そして、イスラエル人は(自分たちが行なったこの殺戮に対する超常的に愚かしい政治的対応を見る限り)何が起こったのかをまったく把握していないように思える。世界の人々は心の底から、こうした非道な行為はもうたくさんだと考えている。沈黙しているのは政治家たちだけなのだ。

【イスラエルの外交騒動】

●ゴールドストーン報告書:2009年11月

2008年12月、イスラエルはガザからイスラエルへのロケット砲撃をやめさせると宣言して、キャストレッド作戦を開始した。3週間で1400人を超えるパレスチナ人が殺戮され、13人のイスラエル人が死んだ。南アフリカのリチャード・ゴールドストーン判事をリーダーとする国連調査委員会の報告書は、イスラエルおよび、ガザ地区を統括しているハマースの双方に戦争犯罪行為が認められるとしたが、より大きな責があるのはイスラエルだと言明した。イスラエルはゴールドストーンの調査に協力するのを拒否したばかりか、報告書は先入観に基づいており、事実を歪曲していると言い張った。

●ハマース幹部の暗殺:2010年1月〜5月

1月、ドゥバイのホテルでハマースの幹部マフムード・アル=マブフーフを殺害した実行犯たちがイギリスとオーストラリアの偽造パスポートを使っていたことが判明したのち、両国政府はイスラエルの外交官を国外退去させた。アル=マブフーフ殺害への関与について、イスラエルは否定も肯定もしていない。イギリスは、このような形でイギリスのパスポートが使われたのは「絶対に認容できない」と述べ、オーストラリアは、これは断じて「これほど親密で友好的な支援関係を続けてきた国」のふるまいではないと述べた。

●入植地建設宣言:2010年3月

イスラエルは、アメリカのジョー・バイデン副大統領が訪問しているさなか、イスラエルに併合されている西岸地区にユダヤ人のための家を新たに1600戸建てるという計画を発表した。これは合衆国からいつにない激しい反発を招き、ワシントンは、中東和平プロセスの再開の努力を台無しにするものだと述べ、国務長官ヒラリー・クリントンは、これはアメリカに対する侮辱だとまで言った。ネタニヤフ首相は、自分の知らないうちに官僚たちが計画を作ってしまったのだと言って、バイデンに謝罪した。今日(6月1日)予定されていたホワイトハウスでのバラク・オバマとの会談はネタニヤフ側からキャンセルの申し入れがあり、ネタニヤフは急遽イスラエルに戻って自由船団事件に対処することになったが、この会談そのものは、イスラエルとアメリカの同盟関係に入りかけたひびを修復するのが目的のひとつだったと考えられている。

●核の秘匿:2010年5月

イスラエルが中東唯一の核保有国であることは公然の秘密だが、イスラエルは核兵器の拡散を防止する世界条約への加盟を改めて求められることになった。先週、核拡散防止条約(NPT)加盟国は、中東全域における大量破壊兵器の保有・開発禁止について討議する会議を2012年に開くことを決定──これは、アメリカ合衆国を含む189のNTP締約国の全会一致で採択された。これによって、イスラエルは、NTPに加盟し、国連の査察団に核施設を公開しなければならない局面に追い込まれたことになる。


Western leaders are too cowardly to help save lives
Robert Fisk
The Independent
Tuesday, 1 June 2010

原文:Western leaders are too cowardly to help save lives

翻訳:山田和子

トップページ
パレスチナ情報センター