パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2004.02.11

シオニズムとディアスポラの関係

Posted by :早尾貴紀

 以下は、このサイトのスタッフでもあるかねこさんとのメールのやりとりから抜粋したものです。シオニズムって何?っていうシンプルだけれども実は一筋縄ではいかない問題について話をしました。


 ポイントになるのは、「イスラエルの復活、ユダヤ人の帰還」という思想は、ユダヤ教に内在的であるとは言えますが、本来的にはそれは神学的な概念であって、世俗政治の話ではないということです。つまり、ここで言う「イスラエル」は領土を占有した国民国家のことではない。人為的に打ち立てることができるものではなく、あくまで最後の審判の日まで宗教を遵守して正しく生きることで、結果として神が実現するかもしれない、というものです。
 それに対して、シオニズムはあくまで近代の政治運動であり、人為=政治によって国民国家を打ち立てようというものです。一定の領土を占有し、そこでは一つの国民=ユダヤ人が絶対多数を占めなくてはならない、という。

 だからそのために、超正統派のユダヤ人らの中には、シオニズムほどユダヤ教に反したものはないだろうという意見もありますし、またそういう運動を実際にしているユダヤ人団体もあります。「イスラエル国家反対! 占領やめろ!」とプラカードを持ってイスラエル国旗を燃やしちゃう、敬虔なユダヤ人(しかもバリバリに宗教的な服装をして)とか。


 しばしば「離散の民、ディアスポラの民・ユダヤ人」という言われ方をします。この「ディアスポラ」っていう言葉は実はやっかいなもので、すでに最初からシオニズムによる近代的読み替えを含んでしまっているのです。神殿崩壊・捕囚以降のユダヤ人の追放・離散状態をヘブライ語では「ガルート」と言います。これは、上で述べたような神学概念であって、終末論的な時間概念です。最後の審判の日に離散状態は終わるかもしれないけれども、それまでのあいだはどこにいても「ガルート(追放)」状態なのです。たとえ現在のエルサレムにいようとも。
 ところが、それを英語などのヨーロッパ語に翻訳しようとしたシオニストらは、半ば以上意図的に、ギリシャ語源を持つ空間的な離散しか意味をしない「ディアスポラ」に誤訳をしました。たんに我々は国を失って離散しているだけだから、それを終わらせるなら新しい国家を作ってそこに集まればいいのだ、と。
 つまり、「時間的追放」から「空間的離散」へと、読み替えが行なわれたのです。国民国家を作ればそれで(空間的な)離散を終わらせることができる、という幻想を広めることになりました。「ディアスポラ→帰還」という図式そのものが、ある意味では捏造だということになります。

 ということまで考えると、シオニズムとかディアスポラと一口に言っても、いろいろと難しい問題を含んでいるのです。