パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2004.12.14

イスラエル国籍のパレスチナ人ベドウィン兵5人が犠牲に

Posted by :早尾貴紀

 12月12日にパレスチナガザ地区南部、エジプトとの国境近くにあるイスラエル軍の前哨基地に対し、ハマスの一組織が攻撃を仕掛け、イスラエル兵5人が殺害されました。そのことについて、もちろん日本の報道では「イスラエル兵」としか出ませんが、今回はさすがに死んだ兵士5人全員がベドウィン部隊の兵士であったため、イスラエル国内ではそのことを前面に出した報道が目につきます。
   イスラエル国内には、主に南部ネゲヴ砂漠地方と北部ガリラヤ湖地方を中心に、人口比1パーセントに満たないベドウィンがいます。ベドウィンは、民族・宗教で言えば、一般のイスラエル・アラブと呼ばれるパレスチナ人と同じく、アラブ人でありムスリムでもありますが、1948年のイスラエル建国直後から、エスニック・マイノリティとして、他のムスリム社会から分断し支配するために、イスラエルはベドウィンを兵役につかせてきました。半遊牧的な生活慣習による地理的・文化的知識やアラビア語力などを利用するという目的もあり、国境警備を主に任務とする民族部隊を編成することが多く、対パレスチナ・対周辺アラブ諸国の最前線に立たせられるという、ひじょうに厳しい任務を課せられてきました。(なお、ベドウィンについては、当情報センター内の「Webサイト紹介」コーナーにある、 「イスラエル国内のマイノリティ」 をご参照ください。
   ただし、より厳密に言えば、「ムスリム」に対しては兵役が「免除」されているという原則に照らせば、ベドウィンの兵役は、ユダヤ教徒やドルーズの場合と異なり、「義務」ではなく「志願」になります。しかし、イスラエル社会の中で三級市民以下の扱いを受け、劣悪な住環境や、深刻な進学・就職差別に甘んじている現実の中で、国民の義務たる徴兵に就くことによって得られる特典は、実質的には志願と言えるほどの選択ではなく、半ば強制として作用してきました。

 その国境警備兵としての任務は、当然のこととしてガザ地区南部ラファ周辺、「武器トンネル」問題で激しい攻撃に晒されているエジプト国境も含まれることになります。したがって、今回死亡した5人が全員ベドウィンであったことは、必然的であったと思われます。5人全員が20歳前後、3人がガリラヤ地方出身、2人がネゲヴ地方出身のベドウィンでした。
   このことについて、13日付けの『ハアレツ』紙は、彼らがベドウィン部隊の兵士であったということを伝え、さらに「彼らは喜んで任務に就いていた」などという見出しの記事まで加えました。それがどの程度、どのような意味で「喜んで」いたのかは、個々人で異なるでしょうし、またイスラエル軍の兵役に就くということを、その本人にせよあるいは家族にせよ、「誇りに思う」というように自分自身に対する言い聞かせ・自己正当化をある程度はせざるをえないということも仕方がないだろうと思います。ところが、ハアレツのデスクは、そうした屈折せざるをえない背景を見るよりも、「喜んで」などという安直な見出しを好むわけです。安易なだけでなく、政治的な意図もあるかもしれませんが。
   それに対して、『エルサレム・ポスト』紙は、ベドウィン部隊編成にも携わった一人による「ベドウィンは、イスラエル国家にとっての防弾チョッキなのだ」という発言をそのまま記事の見出しに使い、兵役自体は否定しないものの、ベドウィンに対する社会的な差別が背景にあることなどを訴えたその人のインタヴュー内容を掲載しました。危険な最前線に、アラブ人であるベドウィン部隊を送り込むことをイスラエル国家の「防弾チョッキ」としたのは、悲しくも卓抜な比喩であったと思います。