パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2005.08.08

「テロ」と呼ばれるものとそうではないもの:報道(見出し)比較

Posted by :s.ando

イスラエルのバスで起きたイスラエル軍兵士の乱射事件を日本のマスコミがどう伝えたのか、「テロ」という言葉に着目して、先月起きた爆破事件の報道と比較しつつ、記録しておこうと思います。

(事件の概要については、 Hot Topics:イスラエル軍兵士がバスで銃を乱射、4人を殺害し10数人が負傷 をご覧下さい)

テロという言葉の定義に関しては、様々な思惑が錯綜し、いまだ国際的なコンセンサスが取れていないとはいえ、外務省の「海外安全ホームページ」に書かれている次の説明にある通り、大筋のところではその認識に大差はないと思います。

「テロ」については国際的に確立された定義は存在していませんが、一般には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受け入れを強要し、又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等をいうものとされています。(外務省「海外安全ホームページ」より)

そこで、今回イスラエル人が起こした乱射事件と、先月の7月12日にイスラエルのネタニヤのショッピング・センターでパレスチナ人が起こした爆破事件の各社の見出しを並記し、マスコミ各社が何をテロと呼び何をテロと呼ばないのかを見てみたいと思います。それぞれ、上が先月の爆破事件、下が今回の乱射事件を伝える見出しです。(資料は、全てネット上に公開されたものなので、実際の紙面では違いがある場合があります)

主な新聞の見出しは、それぞれ以下のようなものでした。

朝日新聞

  • イスラエルで自爆テロ、4人死亡 西岸・ガザ両地区封鎖
  • ユダヤ人少年がバスで銃乱射、アラブ人ら4人死亡

共同通信

  • 自爆テロ、2人犠牲 イスラエル中部ネタニヤ
  • アラブ系住民4人を射殺 ガザ撤退反対派の入植者

毎日新聞

  • 商業施設爆発 18歳パレスチナ人の自爆テロ
  • イスラエル:ユダヤ人過激派、バスで銃乱射 4人死亡

読売新聞

  • イスラエルで自爆テロ、3人死亡…イスラム聖戦が犯行
  • ユダヤ教過激派が乱射、アラブ系4人殺害…イスラエル

次に、テレビでの報道です。ネットで発見できたのは、TBSだけでしたが、次のような結果でした。(テレビでは、イスラエル人が殺されない限り、あるいは、余程の事態を伴ってパレスチナ人が殺されない限り、まともにパレスチナとイスラエルのことが報道されることはほとんどありませんが、そんな中 TBSは、比較的頻繁にパレスチナのことを報道しているように思います)

TBS

  • イスラエルで自爆テロ、3人が死亡
  • イスラエル兵がバス内で発砲、4人死亡

以上が、ふたつの出来事を日本の大手マスコミがどう伝えたかの見出しの記録です。

今回の乱射事件については、少なくともネット上ではどの報道機関も見出しに「テロ」とは書きませんでした。一方、パレスチナ人が起こしイスラエル人が殺された事件については、全てのところが見出しに「テロ」という言葉を使っています。その判断の基準はどこにあるのでしょうか。

どちらの出来事も、「特定の主義主張に基づき、国家等にその受け入れを強要し、又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等」であり民間人への無差別攻撃だと思えます。犠牲になったのも同じくイスラエルの市民権を持つ人々です。違っているといえるのは、次の二点くらいでしょう。

  1. 事件を起こしたのが、一方はパレスチナ人で、もう一方がイスラエル人だった
  2. 犠牲になったのが、一方はイスラエル人で、もう一方がイスラエル人だがアラブ系、つまりイスラエルの領土となってしまっているところで暮らすイスラエルの市民権を持つパレスチナ人だった

結局のところ、よく言われるように多くの報道機関は、アメリカ政府が好んでテロと呼びそうなものをテロと呼んでいるだけということなのでしょうか。それとも、人種差別に基づいた基準を採用しているということなのでしょうか。もしくは、その両方を。


付記 1:
1987年、国連総会において「国際テロリズムを予防する手段、テロリズムの背景にある政治経済的要因の研究、テロリズムを定義し、それを民族解放闘争と区別するための会議を開催する」という提案にアメリカとイスラエルは反対しました。その提案に反対したのは、155ヶ国中アメリカとイスラエルの2ヶ国のみです。あくまでもこのとき提案されたのは、「テロの定義」ではなく「会議の開催」です。

付記 2:
不思議なことに、パレスチナ人抵抗グループがイスラエルの町や入植地に向けて飛ばす手製ロケットのことは、たとえ死傷者が出たとしても、どの報道機関もそれを「テロ」とは呼びません。まさか、自爆を伴わないものは「テロ」とは呼ばないという基準があるとも思えないので、それがなぜなのかは見当もつきません。


ここでは「見出し」について書きましたが、記事本文においても、イスラエルのシャロン首相の「罪のない市民への残忍なテロ」という発言を引用しているところはあったものの、事件自体を「テロ」と名指しているところは発見できませんでした。(あくまでもこれはネット上でのことで、紙面には違いがあるかもしれません。毎日新聞は紙面では「イスラエル兵がテロ」という見出しを付けていたようです。ネット版では、それが「ユダヤ人過激派、バスで銃乱射 4人死亡」となっていたのですが、なぜそのような違いがあるのかはわかりません)