パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2006.02.02

ハマス圧勝をめぐる対話

Posted by :早尾貴紀

 パレスチナの評議会選挙でのハマスの圧勝を受けて、それをどう見るのか、ユダヤ文化研究をしている友人の赤尾光春さんとメールで意見交換をしました。本人の許可を得て、そのときのやりとりを一続きの会話文として読めるように整理しました。

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「今回のハマスの圧勝、選挙で政権交代とは、これだけ厳しい占領下でさえ民主主義が健全に機能したということで、新鮮な驚きがありました。」(早)

「こんなに票を伸ばしたのも、腐敗しきっているファタハに対する懲らしめが主な動機だったようで、しかし、まさかハマスが単独政権を取れほどに圧勝するとは、ハマスに投じた当のパレスチナ人の多くも予想していなかったと言いますね。」(赤)

「いや、それどころか、ハマス自身が、単独過半数まで圧勝する予定ではなかったでしょう(笑) ハマスには武力放棄など穏健路線への変更の圧力がひじょうに強くなってきています。どこまでそれに屈するかはわかりませんが、一定は応じざるをえないでしょう。多くのハマス支持者でさえもべつに武装闘争路線でいいと思っているわけじゃないですし、また闘争を支持しての投票でもないですから、路線変更は外圧だけでなく「内圧」としてもあるわけです。」(早)

「実際、ハマスは選挙前からすでに穏健化の兆しを見せていたというのもポイントだと思います。ハマスは公式的には05年2月以来「タハディーヤ(平穏化)」を維持し続け、その間にイスラエル市民をあからさまに狙った攻撃を控えていますから。もちろんその間も、カッサム・ロケットは飛ばし続けてはいましたが、そのくらいの抵抗パフォーマンスは見せておかないとメンツが立たない、というというところもあったのでしょう。」(赤)

「しかし、ハマスは政権担当などしたことがありません。戸惑うことしきりでしょうね。まあ初めての政権交代くらいのことなら、日本でも非自民連立で経験した程度の混乱かもしれないので、それよりも路線変更のほうが本質的な問題だとは思いますけど。」(早)

「いや、政権交代については、実際、民主主義選挙で大勝したハマスの人間が組閣した政権に入らずに、「テクノクラート政府」を打ち立てるという、民主主義史上まことに珍しい選択肢も本気で探っているようです。ハレディーム(ユダヤ教超正統派)の場合、神学イデオロギー上の理由から、連立はしても大臣職には就かないというような例がありますが、イスラームの場合にもそういった政教分離的な要素があるんでしょうかね。」(赤)

「たぶん、そんな高尚な話ではないと思います。推測するに、ハマスの目論みとしては、ファタハに肉薄する議席を持つ「有力な第二党」の立場で、ファタハに対してもイスラエルに対しても、縛りなしにガンガン自分らの「正論」をぶつけていられる状態を望んでいたのかもしれません。政権なんかについたら、穏健化は迫られるし、政権運営に失敗したら今度は逆に突き上げを食らう立場になるしで、たいへんでしょう。」(早)

「ハマスも混乱しているようですが、「中東に民主主義を!」と豪語していたブッシュの狼狽振りも相当なものですね。世界がいかに空理空論家に牛耳られているか、ということが暴露された瞬間だったのではないかと思います。」(赤)

「心配なのはそこで、イスラーム圏だと、民主的に選挙をすると、イスラーム勢力が勝ってしまい、それを欧米諸国が力で潰す、ってことがこれまでもあったわけです。ハマス勝利を口実に、パレスチナ人への制裁だとか弾圧なんてことが起きなければいいのですが、、、」(早)

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 メールではこんな程度で。

 あと一言加えるべきことは、やはり日本も含めた諸外国は、いまさらハマスとは何者かと問うよりも、パレスチナ人の民意が何に対して NO を突きつけたのか、オスロからの十数年間を反省すべきなのだということでしょう。ファタハに対して NO というだけでないはずですから。