パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2006.02.13

オルメルト首相代行って誰?

Posted by :早尾貴紀

 先日、日本の新聞各紙で、オルメルト氏が、パレスチナ占領地からの「一方的撤退」の継続を表明したと報じました。その内容は、シャロン首相がガザ撤退後に西岸からの入植地撤去は ごく小さな4つだけ だと明言していたのに対して、なんと逆に主要入植地4つを残して他からは撤退する用意があるというものだ、とする記事までありました。この記事だけ読むと、左派の主張にも近いものが感じられますが、はたして彼は和平推進派なのか?
 率直に、この報道のトーンはまずいでしょう。

 これだけははっきり言っておかなければなりません。

 エフード・オルメルトとは、入閣前に、オスロ合意の1993年から10年間、エルサレム市長を務め、エルサレム周辺の入植地拡大を強硬に押し進めてきた政治家です。悪名高き「ハル・ホマ」入植地を作った男でもあります。

 これだけでも彼がいかにひどい政治家であるかがわかるでしょう。彼が入植政策を進めたのは、オスロ合意以降ですよ。合意で入植地問題については「棚上げ」にされてしまっていたのをいいことに、入植地凍結を求める国際世論を無視して、入植地を建設し続けました。「ハル・ホマ」入植地とは、エルサレム郊外で、むしろベツレヘムに近いところにある山でしたが、 それをまるまる一つ削って巨大な入植地にした のです。国連の批難決議ももろともせず。
 そして彼は、シャロン首相の片腕・副首相として、03年以降は対パレスチナ強硬政策をサポートし続けてきました。シャロンが「ワンマン」のように映るためにオルメルトは影が薄くはありましたが、シャロンとオルメルトのコンビは、首相・副首相関係としてはイスラエル史上稀に見る蜜月状態にあったと言われていました。

 そして、首相代行就任後、彼が何度か強調している基本方針はこれです。
・イスラエルはユダヤ人国家でなければならない。
・そのためには人口統計上のユダヤ人がマジョリティの地域を取り込むように国境確定をする。
・つまり、パレスチナ人が多数派の地域を切り捨てるという形の「一方的撤退」を行なう。
・同時に、マアレ・アドミームなどエルサレム入植地群、グッシュ・エツィオーンなどエルサレム南部入植地群、アリエル(西岸北部の巨大入植地)、ヘブロン(イブラヒーム・モスクのある旧市街内の「乗っ取り入植地」と隣接するキリヤット・アルバァ)の「4つ」はイスラエルに組み込み、手放さない。
・また、ヨルダンとの国境をなすヨルダン川沿いの土地も引き続き占領する。
(1月24日のヘルツェリヤ会議でのスピーチや、その後のインタヴューによる。)

 いったいこれのどこが「占領地からの撤退」だというのでしょう?
 過激で煽情的な言動を好んだシャロンに比して、実務派のオルメルトは「穏健」に見えてしまいます。しかし、だからと言って、彼を和平派のように書くのは大きな間違いです。それとまったく同じ理由で、新党カディマを「中道政党」と見るのは危険な幻想なのですが、それはまた後で書きます。