パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2006.12.29

ナゾなヨルダン渓谷開発問題──現地NGOと問題共有

Posted by :早尾貴紀

 エルサレムにいる知人から、「ヨルダン渓谷開発問題については、 反アパルトヘイト・ウォール・キャンペーン が関心を持っているから、その事務所に行くといい。危機感をもっていろいろ調べているようだ」と勧められ、実際に行ってきました。
 広報担当のDさんと、ヨルダン渓谷担当のFさんの二人から概説的なレクチャーを受けましたが、どちらかと言えば、ヨルダン側渓谷地帯の占領問題一般の話が中心でした。イスラエル軍によって開発規制を受けており、どれだけの家屋破壊が行なわれているのかといったことが強調されていました。もちろんそれはそれで大問題です。
 しかし、肝心の、日本政府とイスラエル政府のもくろんでいる開発計画そのものについては、ほとんど何も具体的な情報をもっていないというのが実状のようでした。以前にも触れた外務省のファクトシートを、外務省の英語版サイトでも公表しているのですが( ファクトシート および バックグラウンド )、彼らも現段階で得ている具体的な情報というのはそれ以上のものではないというのです。
 そのため、かえって彼らから僕のほうに、「大風呂敷的な話だけが先行していて、正確な情報がなく困っている。この件に関して何か知ったら知らせてほしい」と頼んできたほどでした。つまり、小泉前首相が得意なパフォーマンスで、「国際貢献」という抽象的なイメージ先行で進められているが実態に近い、ということなのでしょう。むしろ、だからこそ問題だとも言えて、すでに何億ものお金(税金)を使って下調査を重ねておきながら、日本国民にも、現地当事者らであるパレスチナ人にも適切な説明を怠ったまま、占領軍当局であるイスラエル政府と話を進めている、というわけです。

 そして、ヨルダン渓谷開発問題について説明を受けるよりも、むしろ広報のDさんから力説されたことが大きく二点ありました。
 まずは、ヨルダン渓谷地帯は、イスラエルにとっての経済的・軍事的に重要な立地にあり、地元パレスチナ人たちによる開発が一切禁じられ(軍事封鎖地域)、家屋破壊が多く、また学校さえもがテント程度の青空教室になっているということ。こうした事実関係については、詳細な調査データがあり、それについてはデータをいただいてきました。
 もう一点は、日本も含めた国際社会に求められているのは、こういうイスラエルの占領政策に圧力をかけることであり、封鎖を解かせ、家屋破壊を止めさせ、学校建築などを援助することであって、イスラエルの手のひらの上でイスラエル企業を儲けさせるためにイスラエルに協力して占領に手を貸すことではないはずだ、ということ。こうもはっきりと言われました。「パレスチナ人に雇用をもたらすことで少しは地元貢献になるかもしれない、などという発想は絶対にしないでほしい。それは罠だ。経済効果がかりにあるとしても、それはパレスチナ人を低賃金で働かせてイスラエル企業をいっそう儲けさせるという仕組みのうえに成り立っているだけでなく、それが占領構造を是認し強化するものだ。そのことをわれわれは強く懸念している。占領を正当化したり隠蔽したりしないでほしい」、と。
 たしかにこの点は、惑わされてはならないところです。パレスチナ人の雇用創出になるだろうというのは、まさに甘い罠。万一、日本政府やJICAの言うような「農業団地」が形成されたときには、そこにどれだけのイスラエル企業や日本企業が群がって、どれだけの利益を吸っているのかは、厳しい目で見なければなりません。日本のODAが現地のためでなく、日本の開発利権会社に還元されていることは、世界各地の事例から周知の事実です。

 しかも今回は、「軍事占領地」の「開発」。これ自体の問題がむしろ本質的と言うべきかもしれません。
 先のDさんとはこういう会話もしました。「占領地開発」はそもそも国際法違反。ユダヤ人入植地も当然その存在が国際法違反。日本が、パレスチナ自治政府とのみ工場開発をするのであればまだしも、イスラエルという軍事占領の当局とともに開発をするということもまた、国際法に違反するはず。ただし問題は、それを阻止するための法的効力。法的に阻止するのであれば、国内法の整備が前提となるのだが、果たして日本はどうなっているのか。そのあたりのことをこちらで調べて、反アパルトヘイト・ウォール・キャンペーンと情報共有をする必要があります。
 他のヨーロッパ諸国、たとえばフランスとかベルギーとかいくつかの国が、占領地でのイスラエル主導の開発に荷担をしたケースがあり、各国が批准した国際法に国内法整備があるかどうかで、場合によっては訴訟をするという運動をしていこうとしているとのことでした。なので、日本についても、どうなっているのかを調べる必要がありそうです。

(付記:もし国際法関係に詳しい方がいらっしゃいましたら、ご助言をお願いします。情報センターまでご一報ください。)