パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2007.02.18

2007年1月のイスラエル外相リブニ来日と、日本政府の対イスラエル関係強化を批判する

Posted by :岡田剛士

 1月17日から20日まで、イスラエル外相ツィピ・リブニが来日した。外務省のインターネット上のホーム・ページには「リヴニ・イスラエル筆頭副首相兼外務大臣の来日(概要と評価)」(1月22日付)という文書が掲載されている(以下、「概要と評価」)【注1】。

 17日に外相麻生との会談および夕食会、18日に首相安倍と会談、また外国特派員協会で講演があった。この3つについてはマスコミなどでも一応の報道がなされていた。しかし、では19日・20日にはどのような行動だったのか、その報道は見当たらない。外務省の「概要と評価」には「甘利経済産業大臣、緒方JICA〔国際協力機構〕理事長と会談を行った」とも書かれているから、そうした行動だったのだろうという推測は、一応は可能ではある。
 もちろん緒方JICA理事長との会談に対しては、例の「『平和と繁栄の回廊』構想」との関連から様々な批判が表明されていた【注2】。しかしリブニ来日は国家レベルでの公式な「交流」だ。もしも「いろいろと批判の声があるようだから、隠しておこう」などというふうに考えたとしたら、最低だ。JICAが今回のリブニとの会談について、その内容の一切を公開することは、当然の責任であろう。
 「概要と評価」では、「特に『平和と繁栄の回廊』構想の推進について、協力して取り組んで行くことを確認することができたことは、我が国の対中東外交にとり極めて有意義なものとなった」と自画自賛している。もちろん、「取り組んで行くことを確認」というのは重大だ。外務省の「意志」が表明されていると読むことも可能かもしれない。

 さらに麻生との会談では「政治対話の強化に関する覚書」(「概要と評価」での表現)への調印が行われたが、しかし同日(17日)付のAFP電(英文)では、これは「〔中東の〕地域情勢その他のテーマについての副大臣級の『戦略的対話の枠組み〔a "framework of strategic dialogue"〕』を設置するための覚書」だという【注3】。
 「政治対話」と「戦略的対話」では、その意味するところは相当に異なるだろう。AFP電は、そのような覚書であると「当局者が述べた」と書いている。ならば、外務省の「概要と評価」での「政治対話」という表現は公式発表という位置付けであり、その「対話」なるものの意味内容を意図的にボカしているのではないのか、という推測も不可能ではないだろう。
 「戦略的」対話ということであれば、それは、単に「まあ、お互い、時には情報交換くらいはしましょうよ」というレベルの「対話」ではなくて、両国にとっての何らかの明確な獲得目標を定めた上での、その実現のための具体的な内容に関する議論/意見交換を意味しているのではないのか。そうした対話が、さらにAFP電によれば、副大臣級で行われるとされている。日本政府の側では副大臣→大臣と1つだけレベルが上がれば、省として何らかの法案を提出するということが、形式的には可能なはずだ。そういった可能性も「戦略的」の意味合いの中には含まれていないだろうか。

 また「概要と評価」によれば麻生は、「二国間関係では、政治、経済、文化の3点で取り組んでいく、具体的には、政治面では、両国間の政治対話の強化、経済面では、本年前半中のビジネス・ミッションの派遣、文化面では、中東交流・対話のための専門家の派遣を行う旨述べた」という。要するに、全面的な日本とイスラエル間の関係強化をめざすとの意思表明だろう。具体例として「本年前半中のビジネス・ミッションの派遣」に言及している点には、もちろん注目すべきだろう。具体的にどのような分野でのどのような企業が参加するのか、注視していかなければならない。
 さらに、この経済的な面に関連して、以下2つの点も付記しておきたい。

 (1)これまでのイスラエルからの政治家の来日の場合(とりわけ1993年のオスロ合意以降だと思うが)に、経済ミッション(イスラエル財界人たち)が同行してくるということが、何度かあったようだ。しかも、そうしたイスラエルの側からの「国家的な営業活動」については、その詳細は日本のマスメディアで報道されたことは、ほとんどなかったと思う。では、今回のリブニ来日については、どうだったのだろうか。「リブニが来日した」との報道はあったが、しかし「リブニ外相1人が来日した」とは報道されていない、のだ。

 (2)このリブニ来日の翌週(というか、その4日後の1月24日から)例の世界経済フォーラム(WEF)のダボス会議が開催されている【注4】。報道によれば、日本からは松岡利勝農相と甘利明経産相が、また外相リブニ、パレスチナ自治政府の大統領アッバース、ヨルダンのアブドゥッラー国王も出席の見込みだという。WEFの表向きでのプログラムはともかく、その機会に「『平和と繁栄の回廊』構想」の関係4ヶ国での何らかの話し合いが持たれたという可能性はないだろうか。これは別の言い方をするならば、このダボス会議の前というタイミングでリブニの来日がセットされたという可能性はないだろうか、との疑問だ。

 もう一つ問題と思えるのは、麻生との会談で「リヴニ外相より、二国間関係強化に向けた取組に感謝の意が表されるとともに、JICAを通じた第三国協力、宇宙開発及び研究開発の分野で協力したい旨述べた」点だ。
 注目すべきは「宇宙開発」だと考える。1月15日付のイスラエル外務省のプレスリリース(英文)【注5】には、リブニが日本で話しあう予定項目として「宇宙研究〔space research〕、開発研究〔R&D〕、イスラエル・東京間の直行航空便の取決め、そしてJICAとの協力の拡大などの面での、イスラエルと日本の間での協力の可能性」が列挙されている。訪日予定段階での文書だが、この手の政府レベルでのモノゴトは事前にお膳立てがなされるだろうから、イスラエル外務省側の文書に「話し合うだろう」と書かれていたならば、これらの項目について、余程のことがない限り実際に話し合われたとみておくべきだと考える。
 この2国間での「宇宙開発」(イスラエル外務省の文言では「宇宙研究」)となると、可能性として直ちに考え得るのは「ミサイル防衛(MD)」がらみではないのか、ということだ。例えば杉原浩司の次のような報告がある【注6】。
 「〔2006年〕八月九日から三日間、ここ〔東京・国会議員会館隣のキャピトル東急ホテル〕で第八回『日米安保戦略会議』が開かれ、兵器商戦が繰り広げられた……。/『日米安保戦略会議』とは、日米の軍産複合体関係者が集結する一大イベントだ。主催は与野党の新旧国防族議員で作る『安全保障議員協議会』、日米平和・文化交流協会、ブッシュ政権に近い『ネオコン』系シンクタンクである『ヘリテージ財団』など。……/今回の特徴の一つは……今まで米国の巨大軍需産業のブースが中心だった兵器展示に、欧州からBAEシステムズ(英国)が、イスラエルからIAI(イスラエル航空工業)が参入したことである。……IAIはイスラエルの代表的な軍需産業であり、〇四年一〇月にパシフィコ横浜で開かれた国際航空宇宙展の際にも、無人機やミサイル防衛(MD)用迎撃ミサイル『アロー』の模型を展示していた。折りしも、イスラエル軍によるレバノン侵略が続く中で、堂々とイスラエル軍需企業の展示が行われていたこと自体が全く恥知らずと言うべきである。」
 ハイテク・ミサイルに関連するこれまでのアメリカとイスラエルの具体的な軍事協力関係、そしてアメリカと日本のMD関連の動きを考えれば、宇宙軍事技術に関して何らかの提携の申し出がリブニからなされたとしても、決して不思議ではない。先に触れたように、「概要と評価」によればリブニは甘利経済産業大臣とも会談している。もちろんそれは、リブニに経済ミッションが同行していた可能性や、日本の様々なハイテク軍事産業企業との接触の可能性を排除するものでは全くない。今回の来日に際してのリブニの行動の全体が明らかにされていない以上、こうした様々な可能性についても考えておかざるを得ない。
 さらにここで想起しておきたいのは、自民党がまとめた「宇宙基本法案」の骨子案だ。その「法案」の「基本理念」には「宇宙開発は、国民生活の向上、安全で安心して暮らせる社会の形成、国際社会の平和及び安全の確保、我が国の安全保障に資するよう行う」と記されている【注7】。この「法案」およびその「基本理念」は、日本による宇宙の軍事利用への道を開くのと同時に、イスラエルとの軍事協力の実現に向けた格好の口実となる可能性をはらんでいるだろう。
 米ブッシュの「対テロ世界戦争」に全面的に追従する日本が、さらにイスラエルとの関係を(可能性としての軍事面も含めて)広範かつ様々な分野で強化することを通じて(つまり、その歴史的な軍事占領に苦しみ、それに懸命に抵抗し続けてきた民衆の側に立って占領を批判することを通じてではなくて、逆に占領者であるイスラエル国家との国家レベルでの関係を強めるなかから)「中東和平」にも具体的に踏み込んで行こうとするのであれば、そのような日本国家の政策は実にグロテスクであると言わざるを得ない。強く批判されなければならない、と考える。

【注】

  1. 外務省リヴニ・イスラエル筆頭副首相兼外務大臣の来日(概要と評価)
  2. パレスチナ情報センターの特集ページ 「平和と繁栄の回廊」構想 またミーダーン ツィピ・リブニの来日を検証する などを参照。
  3. Israeli, Japanese FMs agree to boost dialogue
  4. 例えば産経新聞のHPに掲載されている共同通信の配信記事ダボス会議が開幕 温暖化、中東問題など討議
  5. FM Livni to visit South Korea and Japan
  6. 杉原浩司「『戦後平和レジーム』の転生は可能か──安倍『軍産複合体』政権の解剖学」インパクション155号(2006年12月)。
  7. 例えば「毎日新聞」2007年1月8日付