パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2007.04.30

アル・ハックによる「土地の日」の声明

Posted by :役重

パレスチナ西岸地区にある人権団体アル・ハックが「土地の日」(3 月30日)に、「ヨルダン渓谷における開発プロジェクト」への懸念を 表明する声明文を発表しています。

今のところ、「回廊構想」に対するパレスチナ側からの批判的反応と して公に発表されているものは、これだけではないかと思われます。

名指しこそしていないものの、占領批判を一切回避したうえで「平和 と繁栄」を謳う「回廊構想」に対して、かなり根本的な批判になって いる声明だと思います。

なお、「土地の日」とは、1976年にイスラエル領内ガリラヤ地方でパ レスチナ人の土地の大規模収用に対する抗議行動が行われた際に、6 名がイスラエル軍によって殺害されたことを記念する日で、毎年、3 月30日に、イスラエルによる土地収奪に対する抗議とパレスチナ内外 におけるパレスチナ人の連帯が訴えられています。


ヨルダン渓谷における土地と自決権

アル・ハック、2007年3月30日

(原文:The Jordan Valley, Land and Self-Determination

土地の日に際し、アル・ハックは、土地と自決権の行使との間にある 本源的なつながりに注目するように訴える。40年近くにわたる占領に おいて、イスラエルは、土地収用のための様々な政策や入植地の建設、 移動の制限によって、被占領地においてパレスチナ人民が自らの土地 に出入りすることを徹底して阻んできた。このことによって、パレス チナ人民による自決権の行使は、事実上、完全に不可能なものとされ ている。

東エルサレムを含む西岸地区において、「併合壁」は被占領地に深く 侵食し、土地を奪い、人びとの移動を制限している。「壁」が完成す れば、東エルサレムを含め、西岸地区の10パーセントが事実上併合さ れることになる。この「併合壁」の建設と平行して、イスラエルは、 西岸地区の25パーセントを占めるヨルダン渓谷へのパレスチナ人の立 ち入りを厳しく制限してきた。

[ヨルダン渓谷と他の西岸地区との間に]「壁」は建設されてこそい ないものの、許可証と検問所、封鎖からなる、ほとんど抜け道のない 管理システムによって、ヨルダン渓谷への物と人の出入りが制限され ている。タヤシール検問所は、ヨルダン渓谷北部への主な入り口であ るが、そこで進められている、まるで国境にあるかのような常設ター ミナルの建設は、これらの制限を恒久化しようという意図を露骨かつ 具体的に表している。

また、イスラエルは、西岸の他地区と同様、ヨルダン渓谷においても 入植地の建設と拡張を押し進めており、そのことが、パレスチナ人の 土地に対する大規模な没収をもたらしている。26ある入植地に7,500 人余りの入植者が住んでおり、そのすぐ側には47,000人余りのパレス チナ人が暮らしている。これらの入植地はヨルダン渓谷の90%を支配 下に置いており、そこにパレスチナ人が立ち入ることはできない。最 近、イスラエル政府はヨルダン渓谷の北部に新しい入植地を設置する 決定を発表した。そこには2005年8月にガザ地区から退去したイスラ エル人入植者が再入植するものとみられる。

国際司法裁判所(ICJ)が、その「被占領パレスチナにおける『壁』 建設による法的帰結に関する勧告的意見」において確認したように、 イスラエルは、東エルサレムを含む西岸地区における「占領権力」で ある。したがって、イスラエルは国際人道法の定める規則に拘束され る。そこでは、被占領地におけるイスラエルの入植地建設は、ジュネ ーブ第4条約49条6項に対する明白な違反だとされている。「軍事上の 必要によって正当化されず、非合法かつ恣意的になされる所有物の破 壊または領得」[同条約147条]は、条約に対する重大な違反とみな されるという点も言及に値する。

ヨルダン渓谷におけるイスラエルの行動と政策は、明確な国際法違反 を構成するだけでなく、その一貫性において、将来の政治的解決がい かなるものであろうと、この地域への完全な支配を維持するという意 志を明確に示している。イスラエル首相、エフード・オルメルトはヨ ルダン渓谷のことを「イスラエルの東の国境」と表現した。イスラエ ルがヨルダン渓谷を支配し続けることは、パレスチナ人民が自決権を 意味のあるかたちで行使することをよりいっそう妨害するというだけ でなく、国連憲章の中心的原則を侵害することでもある。すなわち、 同憲章2条4項は、武力よる威嚇又は武力の行使によって領土を取得す ることを禁じているのである。

上述したような条約違反に関して、ジュネーブ第4条約1条は、締結国 はいかなる状況においても条約を尊重し、かつ、この条約の尊重を確 保しなければならないと定めている。さらに、国連総会決議2625号は 次のように述べている:

すべての国は、国連憲章の条項にしたがい、共同のあるいは個別の取 り組みを通じて、諸国民の平等権と自決権という原則の実現に向けて 努力する義務がある。

アル・ハックは、最近、第3国が支援するヨルダン渓谷開発プロジェ クトの概略が発表されたことについて、重大な懸念をもっている。ア ル・ハックはパレスチナ経済を活性化するためのイニシアチブを歓迎 するが、それらのプロジェクトは、国際法に違反する形で行われては ならず、イスラエルによる違法入植地の建設や土地収用、パレスチナ 人民の自決権への侵害に対する擁護・隠蔽に貢献するものとなっては ならない。

土地の日を記念すると同時に、アル・ハックは、国際社会が、イスラ エルによるパレスチナ人民の基本的権利、とりわけ自決権に対する継 続的侵害に関して、国際法上の義務を思い起こすように訴える。これ らの違法行為を終わらせ、パレスチナ人民の権利を実現することは、 国際法に従って占領を終わらせることを通じてのみ可能である。した がって、アル・ハックは以下のことを要請する:

・ヨルダン渓谷における開発プロジェクトに関わるすべての当事者は、 それらのプロジェクトが、国際法上の義務、とりわけイスラエルの違 法入植地に関わる義務に従っていること、また、パレスチナ人の自決 権を犯すものではないということを、明確かつ公的に示さなければな らない。

・国際社会のすべての成員は、上述した国際法上の義務に全面的に従 わなければならない。

(翻訳:役重善洋) ※[]内は訳注。