パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2008.07.12

東エルサレムの住民に対する集団懲罰/家屋破壊について(その1)

Posted by :早尾貴紀

 7月2日に西エルサレム中心部で、パレスチナ人建設労働者の運転する大型ブルドーザーが暴走し、イスラエル人3人が死亡、80人程度のケガ人が出る事件がありました。それについては、先日Hot Topicsに速報として、 「東エルサレム住民の「テロ」と、その「制裁」としての家屋破壊」 を書きましたが、ここでもう少し詳しく。

 結局、イスラエル警察の捜査によっても、東エルサレムに住むこの事件の犯人は、パレスチナのいかなる政治組織・武装組織には属しておらず、あくまで個人的な犯行であると結論づけられました。計画性も政治的目的も、確認されていません。
 また、親族の証言によると、麻薬中毒者らしい(もちろんだからといって、この犯行が麻薬による幻覚などによるものなのか、政治的動機が皆無なのか、性急に判断することはできません)。

 それにもかかわらず、オルメルト首相は、「東エルサレム中のあらゆるテロリストの家屋を破壊する」と豪語し、バラク国防大臣は実際に、今回の犯人の家屋破壊命令を出しました。しかも、マズーズ検事総長が、家屋破壊は違法行為ではないというお墨付きを与えているというのです。
 ユダヤ人の右派・入植者の活動家らは、もちろん「速やかにテロリストの家屋を破壊せよ」と叫んでいますし、新聞のコラムやオピニオンにも、そういう論調を見ることができます。

 しかし、「東エルサレム住民」による「個人」の犯罪行為です。そのことはイスラエル当局でさえ認めていることです。それにもかかわらず、その親族への「懲罰」として、そして東エルサレムのパレスチナ人全員に対する「見せしめ」として、家屋破壊をするということは、いくつもの問題・疑問を提起します。

  • 犯罪者の家族の財産を破壊するという報復行為は、いかなる意味で「法治国家」に認められているのだろうか?
     (そもそも報復行為を禁じるのが刑法ではなかったのか?)
  • イスラエルに「併合」された東エルサレムのパレスチナ人住民は、イスラエルの「国民」として「併合」されていないのか?
     (どうして国家が「正規の領土」と定めている地域の住民が、法の適用を受ける「国民」でないということになるのか?)
  • では仮に東エルサレムの住民も、それ以外の西岸地区の住民と同じように被占領下の住民だとして、しかしだからといって、超法規的報復措置が正当化されると言うのだろうか?

 さらに疑問が続きます。

  • 今回の事件について言えば、このまったくの個人による犯罪行為が、「テロリズム」であるというのは、どういう規定によるのか?
  • 逆に、これを「テロ」とするのであれば、武装組織が計画的にかつ政治的目的をもって実行に移した、一般市民を巻き込む犯罪行為とは、どういう質的差異が認められるのか?(あるいは同じ「テロ」だとでも言うのだろうか?)
  • だとしたら、例えば、西岸地区にいるユダヤ人入植者が、地元のパレスチナ人の老若男女に対して日々行なっている、残虐な犯罪行為は、どうして「テロ」とは呼ばれないのだろうか?

 こうした素朴な問いを冷静にボチボチと考えていくだけで、イスラエルの「占領政策」全般──西岸地区だけでなくガザ包囲問題もエルサレム併合問題もガリラヤのユダヤ化問題も含めて──が、いかに暴力的で矛盾だらけであるかが感じられます。もしかりにそれらがすべて「合法的である」とすれば、それはイスラエルの法体系そのものが暴力的である、と言うべきでしょう。

【参考】
「バス乱射犯人は「テロリストじゃない」とイスラエル」 (P-navi info)