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スタッフ・ノート

2009.06.03

新潮文庫の翻訳小説新刊シェイボン『ユダヤ警官同盟』は「とてつもない」!

Posted by :早尾貴紀

 マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟(上・下)』(黒原敏行訳、新潮文庫、2009年5月)は、オビの言葉にもあるように、「とてつもない」小説です。

 イスラエルが1948年に建国に失敗し、ユダヤ人は再度、離散(ディアスポラ)!、という設定のフィクション。アメリカ・アラスカ沿岸のバラノフ島に避難民が殺到。結局、60年間の時限付き暫定特別区となった。その期限切れを目前にした2007年、さらなるディアスポラの動きがあるなかで、超正統派ハシディズムの指導者レベの子息が殺害される事件が、、、
 ストーリーは書きますまい。
 興味深いのは、この物語の核心に、そもそもユダヤ教の信仰が国家主義とは相容れないとする超正統派のコミュニティがあるということ。そして、再ディアスポラ化目前に、その教義と、それに反する人為的「帰還」とのあいだの、軋轢があること。
 翻訳者は「訳者あとがき」で、この問題を説明し、わざわざ ジョナサン・ボヤーリン&ダニエル・ボヤーリン『ディアスポラの力』(赤尾光春・早尾貴紀訳、平凡社) に言及してくださっています。ありがたい。

 本のオビ裏には、「ハルキ・ムラカミの『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』ばりの」などという売り文句がありますが、それどころではありません。エルサレム賞をありがたくいただきに行っている村上春樹とは、構想力が違います。『1Q84』なんて読んでる場合ではありません。『ユダヤ警官同盟』、よろしく。

(参考: 「早尾貴紀:本のことなど」 でも紹介記事。)