パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2009.06.08

オバマ米大統領のカイロ演説をどう評価するか

Posted by :早尾 貴紀

 新聞の国際面には、ひさびさにパレスチナ/イスラエル関係でまとまった記事がここ数日出ています。オバマ米大統領が中東を歴訪し、4日にはカイロで演説を行ない、中東和平に積極的に介入する姿勢を示しました。内容は主に、ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植地建設問題についてイスラエルに「完全凍結」を求めること、パレスチナ国家の独立を支えることによって二国家解決方針を明確にすることでした。このため、どちらも拒否している右派内閣を発足させたばかりのネタニヤフ首相と軋轢が生じている、というのです。

 たしかにオバマ大統領の姿勢は、ブッシュ前大統領の姿勢(対テロ戦争の同盟者として、入植地から占領政策まで全面的なイスラエル擁護)と比べれば、一定の「変化」に見えます。実際、相対的に見たら、前進と言えるかもしれません。
 しかし、あまりにオバマ演説を大きな「変化」と見る報道の傾向(国際的には中東和平の前進/イスラエル内ではオバマの「裏切り」)について、ここで二点、異論を提示しておきたいと思います。

1、入植地建設の完全凍結ではまったく不十分。いつのまにか、判断の基準そのものが狂わせられてしまっているのではないかと思います。ブッシュ政権下で提示された「ロードマップ」(03年)でさえも「入植地の完全凍結」ぐらいは求めていました。そのブッシュ政権初期に戻った程度の提案にすぎないのです。
 また、「凍結」とはどういうことでしょうか。「解凍」もありえると? それから、新たな建設・拡大は認めないということですが、すでに存在している48万人分の入植地は容認するということ? すでにある分については、「今後の課題」とさえしていないわけです。

2、二国家解決というのは、オスロ合意原則に戻るということですが、現在の和平の破綻は、オスロ合意そのものの失敗なのでは? オスロ合意を尊重せよ、というのは和平派の合い言葉のようになっています。しかし、第二次インティファーダは、オスロ合意からの逸脱なのではなく、オスロ和平プロセスそれ自体の行き詰まりの帰結だったはずです。
 1993年の合意からインティファーダ勃発の2000年までの7年間で、入植地は20万人規模から40万人規模へ倍増。土地はどんどんと収奪され、東エルサレムは着々と包囲され、難民の帰還権も水利権も進展ゼロ。和平の配当どころか、貧困・失業の悪化。これが和平プロセスなのかと不満が爆発したわけです。
 だとしたら、オスロ原則に戻るとか、あるいはそれを仕切り直したロードマップに戻るというのは、現実的な意味があるのでしょうか? 実質的に二国家つまりパレスチナ独立など不可能な状態になっているのに、口先だけで二国家を訴えるのは、空疎なパフォーマンスにすぎません。
 入植地の「完全凍結」ではなく「全面撤去」、水利権も含む占領の全面終了、国境管理権の譲渡、東エルサレムの返還。これらを伴わない二国家宣言は詐欺だと言わざるをえません。

 以上に二点に鑑みて、オバマ大統領のカイロ演説に期待をかけるのは間違いだと思います。
 なお、ちょっと前に、『現代思想』2009年3月号の特集「オバマは何を変えるか」で、ノーム・チョムスキー「オバマのイスラエル-パレスチナ問題」(早尾貴紀訳)を掲載しました。こちらもぜひお読みください。 

 余談ではありますが、ネタニヤフ右派内閣首相は、二国家解決を拒絶し、「まずはパレスチナとの経済関係の強化が先決だ」と主張しています。なんとも日本の外務省・JICAの「平和と繁栄の回廊構想」(西岸占領地でイスラエルと経済開発事業)に親和的なことか!