パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2010.02.02

東エルサレムの入植地の拡大を見る――無意識の入植者たち

Posted by :早尾 貴紀

2010年1月●日

 ここ数ヶ月、イスラエルとアメリカとのあいだで、西岸地区のユダヤ人入植地建設の「凍結」をめぐって、瑣末なやりとりが報道されています。
 瑣末なというのは、あえてそう書いたのですが、まあ見方によれば成果はゼロではないのかもしれませんが、しかしオスロ合意からこのかた16年間以上、西岸地区の入植地の建設がとまったことはないのであって、その間も、何度となく入植地建設の「凍結」はアメリカから求められてきていたわけです。
 それに対するイスラエルはと言えば、「既存の入植地での住宅地建設は凍結に含まれない」とか「西岸地区の人口の自然増加分に見合う建設は認められなければならない」とか「東エルサレムはイスラエルの正規の領土なので凍結に含まれない」とか、アメリカとの交渉をぐだぐだ延ばしているあいだに、凍結の意味をまったく骨抜きにすることをやってきたわけです。
 さらに、こんな交渉をやっているあいだにも、イスラエルのネタニヤフ首相は、「入植地は永久にイスラエルの領土である」と公言しているありさまで、凍結議論には、まったく意味がないと言うしかありません。

 いま西岸地区のユダヤ人入植者は50万人を確実に突破しています。この数字はどんどん増えていっています。

 さて、東エルサレムの入植地問題の専門家と、現状を見て歩くツアーがありました。とくに印象的だったのは、エルサレム南部の悪名高いハル・ホマ入植地の拡大工事。この入植地は、90年代の末に計画され2000年代に入ってつくられた新しい入植地で、エルサレムとベツレヘムのあいだに位置する山一つを、丸々伐採して造成された入植地です。
 有名な写真が、 ここで見れます

 そのハル・ホマ入植地への増築はたびたび進められてきたのですが、昨年、約1000棟を増築することが決定されたのです。
 今回、そこを見渡せる場所に行きました。写真を示します。

 僕が立って写真を撮っている場所は、西エルサレム側から。ハル・ホマ入植地の下に、広大な造成地が広がっているのが確認できます。これが入植地建設にカウントされないというわけですから、凍結議論の無意味さがわかります。
 そして地続き、数百メートルで、この立っている地点、つまり西エルサレムに達します。将来的にはこれは、そうなるかもしれません。

 実際、すでに完全に地続きとなっている、たとえばギロ入植地のことを考えてみると、イスラエル人(入植者)の意識の持ち方にまで影響を及ぼすだろうことがわかります。
 ハル・ホマに住んでいるユダヤ人は、まだ自分が入植地に住んでいるという自覚があります。周囲から区切られた一塊の入植地となっているからです。
 ところが、ギロなどの住民は、もはや自分が入植者であるという意識が微塵もない、というのです。「エルサレムの郊外」という程度。道路一本を挟んで西エルサレムと接していて、そこを走っていても境界線など不可視だからです。

参考: 図解 東エルサレム周辺のユダヤ人入植地

 また、そこに「入植」するに際しても(つまり居住するに際しても)、占領地の領土化に資してやろうなどという政治的動機があるわけではなく、ただたんに政府や市当局の方針によって、税金や、土地・建物の価格ないし家賃が安いから、というだけの理由でそこを選んでいるのです。
 逆に言うと、そこにイスラエルが入植政策を止められない理由があります。貧富の格差の拡大で、中流層以下は、もはや西エルサレムそのものに住むことが不可能となっているのです。税金と家賃ないしローンによる出費は、西エルサレムと東エルサレム入植地とでは、トータルで倍ぐらいの差がつくとのことです。

 こうしてどんどん東エルサレムの入植地は拡大してゆき、西エルサレムと地続きになり、そこに低所得者層を送り込むことで、入植者意識・占領意識も拭い去られていくというわけです。
 徹底したシステムを見せられた思いです。