パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2010.04.09

大人のNGOと子どものNGO?――WACとAIC

Posted by :早尾貴紀

 また訪問滞在記を続けます。

 滞在中に、創設メンバーの一部が元「マツペン」であるというところで歴史を共有する二つのNGO団体を訪れました。マツペンというのは、60年代・70年代に活動を展開した反シオニストの共産主義グループで、ルティ・ジョスコヴィッツさんや広河隆一さん、今度来日するシュロモー・サンド氏などもメンバーでした。それがイスラエル当局などの弾圧や内部での路線の違いなどもあって解散。80年代には、元メンバーがそれぞれ核となりつつ、別のグループを立ち上げ、それぞれに信じる道を進みはじめました。
 そのうちの一つが、 オルタナティヴ・インフォメーション・センター (AIC)、創設の中心者はミシェル・ワルシャウスキー。

 西エルサレムと、西岸地区ベツレヘム近郊のベイト・サッフールに事務所をもち、西エルサレムでは主にパンフレットなどの出版広報活動を、ベイト・サッフールでは主に講演やカフェ・トークや上映会などのイベントを、それぞれ力を入れて活動しています。
 オルタナティヴ・インフォメーションと言うだけあって、英語でのパブリケーションは豊富で、上記サイトからダウンロードできるPDF書類もたくさんあります。紙媒体を止めてしまったとはいえ、News From Withinも充実した雑誌でした(いまはPDFのみです)。
 また、ベイト・サッフールのほうには、イタリア、スペイン、イギリス、アメリカなどなど、欧米からの外国人のボランティア・スタッフやセミナー参加者がひじょうに多い。長期滞在の欧米人スタッフが英語のできる地元パレスチナ人コーディネーターとともに、海外からの参加者を受け入れているので、欧米圏からの参加者に偏っている気もします。

 二つの拠点とも見た目には人の出入りも多く、AICは活発なようにも見えます。西岸側にもイスラエル側にも、ゆるやかな繋がりをもつグループも多いので、何かしら外国人をつれてツアーやインタヴューなどをするのにも選択肢が多いのですが、、、
 ただし、AIC自体は特定の分野に具体的に取り組みを継続させている団体ではありませんので、漠然と啓発活動をしているだけのようにも見えてしまいます。反占領を最大公約数として。オルタナティヴな情報、オルタナティヴなツアー、オルタナティヴなレクチャー、、、
 上記のワルシャウスキー氏の講演会も出てみたのですが、すでに言い尽くされた感のある、シオニズム批判の概説みたいなことを、さも重大な暴露をしているかのように大言壮語する感じで、聞いていてつまらなかったというのが正直な感想。
 また、出入りが活発なのはいいけれども、別の意味では短期間で関わって離れていく人が多い。そのためにコアメンバーの年齢層も若く、若さはいいとしても、学生っぽい素人みたいな人が多い。

 外国人にとっては英語のパブリケーションが多く便利であるのは確かだけれども、イスラエル/パレスチナ内部において具体的に何をどう変えていくのか、というビジョンも人材も蓄積もない、素人の集団という感じは否めませんでした。

    *    *    *

 もう一つのNGO団体は、「民主的行動機構」。むしろ機関誌の 『Challenge』 の名前のほうが知られているかもしれません(こちらも最近紙媒体を止めてウェブのみになりましたが)。ディレクターのロニ・ベン=エフラートがかつてマツペンにいたことがあるみたいです。
 こちらのグループは主に、イスラエル側、とくにガリラヤ地方を中心に活動をしていますが、テルアヴィヴに本部があり、エルサレムや、必要に応じては西岸地区に入ることもありますので、ガリラヤにかぎらず全体をカバーしています。
 このグループのなかでもとくに具体的な取り組みとして活動を展開・蓄積しているのは、イスラエル内のアラブ人の土地や農業の問題に取り組む 「ガリラヤのシンディアナ」 と、アラブ人労働者の雇用問題に取り組む 「ワーカーズ・アドバイス・センター」 (WAC)。
 このグループ全体とは日本ではパレスチナ・オリーブが長くパートナー関係を維持しているので、日本では パレスチナ・オリーブのサイト で一定の活動状況を読むことができます。

 シンディアナもWACも、具体的に土地を守る、雇用を守るという活動を積み上げつつ、理念としては反シオニズムを貫いています。アラブ人とユダヤ人のスタッフがいっしょに働くだけでなく、ユダヤ人の側がアラビア語を共通語として身につけなければならないとしています。ユダヤ人の支配性・優越性といったものを自ら批判していかなければ、対等な共生などありえないからです。

 両団体の継続的な活動については、パレスチナ・オリーブの 通信『ぜいとぅーん』 をお読みいただくとして、今回の訪問記としてそこに書いたイベントのことを、ここに転載します( 『ぜいとぅーん』最新40号 より)。

1月にWAC主催の「ブレッド&ローズ」の絵画展示即売会がありました(「ブレッド&ローズ」については通信38号参照)。これは、WACの活動資金を集めるために、テルアヴィヴの芸術学校の会場提供の協力も得て、一日、絵画の展示販売をするというもの。売買が成立した場合、出品した画家が売り上げ金額の25%を、WACが75%を受け取る、という仕組みになっています。

2年前に始まり、今年で3回目。知名度がどんどん上がり、作品を売るという貴重な機会として出品したい画家も殺到。今年は限られた展示スペースのために、一画家一作品を原則に審査を行なって、展示品を250点に絞ったとのこと。また、絵画作品を買いたい人たちにも浸透してきて、展示会の前から問い合わせや下見の希望が増え、展示と同時に売買が成立していきました。安い作品で100ドルから、高いのでは5000ドル! 中心は500〜1000ドルぐらいと、けっして安いものではないと思いますが、僕が行った正午の時点ですでに売約済みシールが目立ち、最終的には過半数が売れたとのこと。

その正午からは、開催セレモニー。主催者挨拶、会場の芸術学校長の賛同挨拶のあとに、アラブ女性詩人による詩の朗読とヘブライ語への翻訳の朗読、あるいはユダヤ人文学者の連帯アピールなどがありました。この展示イベントでは画家しか出品できないけれども、ふだんからマアンはさまざまなアーティストとの協力関係をつくっており(ピアニストやラッパーなどが集会でパフォーマンスをすることも!)、その日は関係の深い文学者グループがセレモニーを盛り上げるのに駆けつけてくれたとのこと。

来場者もひっきりなしで、果てはイスラエルの国会議員まで視察に来たとのこと。「何しに来たんだろうね?」とWACのメンバーに聞くと、「話題になっているから、選挙目当てで自分の姿を見せに来たんじゃないか(笑)」。そのことにも関係しますが、このWACの活動ですごいなぁと思うのは、出品者の画家も買いにくるお客さんも、そこにはユダヤ人もアラブ人もいますが、その多くはWACの支持者というわけでもなく、アート・イベントとして成功させてしまうということです。これが労働問題の活動資金集めのイベントであることは、出品者にも来場者にもアピールしており、会場でもWACのパンフレットを配っていました。アラブ人労働者や外国人労働者の問題に取り組むWACの活動の重要性を、こうしたイベントによってアピールして、普段は政治問題や労働問題に関心を向けない層にも訴える機会にしながら、そうした層から活動資金を得るというところに感心しました。

 先に紹介したAICと比べると、玄人の、大人の団体という感じがします。自分たちもその一員として責任を担っている社会に対して、具体的にどのように働きかけていくのかということが、つねに活動の基底にあります。派手な言論パフォーマンスに走ることなく、地に足がついた活動を重ねているところに共感をもちました。