パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2011.02.14

エジプト政変とパレスチナ/イスラエルーー『週刊金曜日』で書いたこと

Posted by :早尾貴紀

 親米・親イスラエル国家エジプトの政変と、自治政府の背信情報のリークで、パレスチナに「革命」が飛び火する?
 そんな期待とも心配ともつかぬ「思惑」もあちこちから聞こえますが、ちょっと待ったと言いたくて。そんな気持ちで 『週刊金曜日』の「アラブ民衆革命」 特集に文章を書きました。

 圧政に対する批判と、ウィキリークスによる腐敗の暴露によって、チュニジアの大統領が亡命し、その余韻の残る1月23日に、突然報じられたパレスチナの「リーク情報」。アッバース政権下のファタハ・パレスチナ自治政府が、イスラエルとの和平交渉でエルサレム・領土・難民について大幅な譲歩を提示していた、といったことを示す機密文書が、アルジャジーラとガーディアン紙に「リーク(漏洩/暴露)」され、大きく報道されたわけです。
 その直後、25日からエジプトで大規模なデモ開始。そしてとうとう2月11日に、ムバラク大統領が辞任します。
 そうした事態のなかで、アッバース・ファタハ自治政府もまた「親米・親イスラエル」であり、援助金漬けで腐敗しており、そして政治的裏切りが暴露されたところで、いよいよか、というわけです。

 しかし、大きく二つのこと疑問を呈したいのです。
1、ファタハ自治政府のイスラエルへの譲歩は公然たる事実ではなかったか?
2、そうしたファタハ自治政府はすでに2006年の選挙で打倒されたのではなかったか?

 1について。
 2000年にクリントン米大統領がとりまとめに失敗したアラファート大統領とバラク首相の交渉、そしてその妥結を試みた翌01年のタバ交渉。ここですでに公然と、東エルサレムも含む西岸地区の大半の入植地(西岸地区の数%にあたる面積)をイスラエル領とすることや、パレスチナ難民の帰還については象徴的に数万人のみに抑え事実上放棄することが話し合われていました。
 いま西岸地区の内部を走っている分離壁のラインは、タバ交渉のときに出された領土的妥協の分割線にほとんど沿っています。01年中には分離壁プランが発表され、02年には着工されましたが、それでもファタハ自治政府が黙っていたのは、イスラエルがタバ交渉のラインを基本としてパレスチナ独立を認めてくれるだろうと踏んだからか。
 そしてそういった「譲歩」は、もとをただせば、1993年のオスロ合意の延長線上にあることも、ここで再確認しておくべきでしょう。
 つまり、ファタハ自治政府のイスラエルへの譲歩など、周知のことでしかないのです。

 2について。
 パレスチナの「民衆革命」はすでに2006年に選挙という手段で起きていた、と言うことができます。上記のように、ファタハ政権は、自らの組織の地位と利権を最優先させ、そのためにイスラエルと妥協を重ねて、結果パレスチナ全体としてはただただ失う一方となりました。国際援助は入ってきますが、それは自治政府関係者を潤すのみで、人々には何ももたらさないどころか、入植地は増え続け、壁は延びていき、土地も仕事も奪われていく。
 その結果が、パレスチナの人々のハマースへの政権交代という選択だったわけです。06年、国際監視団の入ったパレスチナの議会選挙で、オスロ合意以来13年間「和平交渉」の一当事者であったファタハは「No!」を突きつけられ、ハマースがパレスチナ全土で(つまり西岸でも)勝利しました。
 これは、イスラエルへの譲歩と腐敗を重ねるファタハ/アッバースを否定し、そしてオスロ合意からひっくり返そうというハマースに託すという点で、革命的でした。注意してほしいのですが、パレスチナ民衆が宗教的になったということではありませんし、またハマースはイスラエルを認めていないわけではありません。ハマースは、1967年占領地(西岸・ガザ)からすべての入植地を撤去せよ、占領を完全に終結させよ、と言っているのであり、その点が支持された、ということです。

 ということで、「パレスチナへの飛び火」を心配したり期待したりする前に、何が本質的な問題なのか、それを冷静に見なくてはならないと思い、『週刊金曜日』に記事を書いたわけです。
 詳しくは、あとは実際の記事のほうを読んでください。

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 ところで、同号に佐藤優の「モスクワ爆弾テロ事件とエジプト騒擾」という文章(連載「飛耳長目」58として)も掲載されているが、、、古い頭で冷戦構図・対テロ戦争構図で無批判にアメリカ・イスラエル・日本を同一化し、イスラエル・アメリカの軍事攻撃を支持してやまない論客を、週刊金曜日で使い続けるのはやめてほしい。こういうのと同じ目次に名前が並ぶのはホント恥ずかしい。
 この掲載文書も、今度のエジプトの事態について何一つ重要なことを書いていないどころか、「騒擾」って言葉を選んでテロと並べている時点で、佐藤優の価値観なり認識の程度を示している。この号の特集タイトルが「革命」なのに、佐藤優は「騒擾」って、、、