パレスチナ情報センター

スタッフ・ノート

2014.08.15

ガザ虐殺を後押しする安倍政権の「積極的平和主義」

Posted by :役重善洋

7月8日以降、ガザでは328人の子供を含む1324人の住民がイスラエル軍によって虐殺された(7月30日現在)。ネタニヤフは世界中に広がる抗議の声に耳をふさぎ、作戦の続行を宣言している。

今回のイスラエルの「境界防衛作戦」には安倍政権が深く関わっている。というのも、今年5月12日、安倍首相は来日中のネタニヤフ・イスラエル首相と「日本・イスラエル共同声明」に署名し、両国間の「包括的パートナーシップ」の構築で合意しているからだ。この声明は、4月末、9か月間続けられてきた和平交渉を執拗な入植地拡大によって事実上決裂に導いたばかりのイスラエルに対して、際立った外交的支持を与えるものであった。

日イスラエル首脳会談 (外務省、2014年5月12日)

和平交渉決裂以降、欧州諸国において相次ぎ、入植ビジネスのリスクについて企業向けの警告が発せられ、また、7月1日に成立したファタハ・ハマースの暫定統一政府についても欧米諸国が軒並み承認するなど、イスラエルは外交的危機状況にあった。そうした中、日本は「積極的平和主義」のスローガンのもと、イスラエルと事実上の「同盟関係」を結んだのである。

17 EU members take action against corporate complicity with Israeli crimes (Palestinian BDS National Committee, July 7, 2014)

しかも、「包括的パートナーシップ」の中には、両国の国家安全保障局間の意見交換開始や防衛当局間の交流促進、サイバー・セキュリティ分野での協力が含まれる。このことは、日本とイスラエルとの間で軍事・セキュリティ情報が広く共有されるようになることを意味する。つまり、安倍首相は、パレスチナ人に対するイスラエルの戦争・占領政策の具体的な協力者となる選択を行ったのである。さらに「境界防衛作戦」開始直前の7月6日には、茂木経産相がイスラエルを訪問し、ナフタリ・ベネット経済相との間で技術開発協力に関する覚書に署名している。

茂木経済産業大臣がイスラエル、パレスチナ、トルコに出張しました (経済産業省、2014年7月9日)

また、武器輸出三原則が撤廃された今、多くの日本企業がパレスチナ人を実験台にして成長してきたイスラエルの軍事・セキュリティ業界との取引を拡大している。例えば、ガザ周辺のフェンスに設置されたEL-FAR社製の振動センサーや、西岸の隔離壁や入植地に設置されたioimage社製の監視カメラ・システムを、三井物産エアロスペースが輸入販売している。他方、7月17日の国家安全保障会議では、迎撃ミサイル「パトリオット2(PAC2)」の部品の米国への輸出(三菱重工)と、F35戦闘機搭載のミサイル技術をめぐる日英共同研究(三菱電機)が認められた。いずれの兵器もイスラエル軍の使用する可能性が指摘されている。現在ガザ空爆に使用されているF15やF16の次世代主力戦闘機として導入が決まっているのがF35であるが、その生産過程にも三菱重工や三菱電機、IHIなどが参画することになっている。日本はイスラエルのパレスチナ人に対する民族浄化政策に商機を見出すとともに、その軍事的強化に手を貸そうとしているのである。

イスラエル製 振動センサーセキュリティシステム「VIPER」 (三井物産エアロスペース)
防衛装備移転三原則に大きな抜け穴 (東洋経済オンライン、2014年7月25日)

この間、イスラエルの武器貿易は急増しており、2012年の武器輸出額は75億ドルを超え、輸出総額の1〜2割を武器を占めるようになっている。売上総額は、国民一人当たり10万円に相当するという。武器とみなされない「センサー」や「監視カメラ」などのセキュリティ製品まで含めて考えれば、イスラエルにおける軍産複合体の肥大は目を覆うべくもない。和平交渉を通じてではなく、このような戦争経済の拡大・グローバル化を通じてイスラエルの外交的行き詰まりを突破しようとしているのが上述のベネット経済相(極右政党「ユダヤの家」党首)など、極右入植者の利害・イデオロギーを代表する勢力である。イスラエルの戦争ビジネスと積極的に手を結ぼうとする安倍政権の「前のめり姿勢」が、ベネットに象徴される「戦争推進勢力」を力づけ、準備済みであったガザ虐殺計画の実施へと強く背中を押したことは否定しようがない。

Israel's booming secretive arms trade (Al Jazeera, Aug 16, 2013)

他方、占領と戦争の継続・拡大を前提とするイスラエルのいびつな経済体制は、OECD加盟34か国中最大の貧困率(20.9%)や5位の所得格差といった国内矛盾としてあらわれており、それがイスラエル社会における排外主義の蔓延を含めた思想状況・社会状況にも深く影響していると考えられる。イスラエルとの軍事関係を深める日本もまた、戦争国家と超格差社会への道を確実に歩んでいる。パレスチナの人々を抑圧・支配するテクノロジーとそれを支える資本・イデオロギーは、イスラエル社会を腐敗させるだけでなく、日本社会における植民地主義の遺制と共鳴しつつ、グローバルな戦争・占領システムに私達の生活・思想を巻き込みつつある。これまで以上に、パレスチナ連帯の視点が日本の社会運動に求められているように思う。

Report: Israel has highest poverty rate among OECD countries (Jerusalem Post, Mar 18, 2014)

『思想運動』 941号(2014年8月1・15日)掲載の文章に一部修正・加筆