パレスチナ情報センター

アパルトヘイト・ウォールがめざす《最終解決》
ジャマル・ジュマ インタビュー

PENGON / ストップ・ザ・ウォール・キャンペーン・コーディネーター
ジャマル・ジュマ(Jamal Juma') インタビュー

以下の文章は、2003年9月、隔離壁問題に取り組んでいるNGO、PENGON の事務所で行ったインタビューを翻訳したものです。

「壁」計画が、パレスチナ問題の「最終解決」を目指すものであり、大イスラエル主義の完成を意味するものであるということが非常にクリアーに解説されています。

PENGON:パレスチナ環境NGOネットワーク(The Palestinian Environmental NGOs Network)。西岸・ガザで環境問題に関わる活動を行っているNGOのネットワーク。ストップ・ザ・ウォール・キャンペーン(http://www.stopthewall.org)の呼びかけの中心団体。ジャマル・ジュマさんはPENGONのコーディネーター。

紹介する地図は、ストップ・ザ・ウォール・キャンペーンのサイトにあった、2003年10月1日現在の隔離壁の建設状況の地図に手を加えたもので、もともとは、PLOの交渉担当局 が作成したものです。

アパルトヘイト・ウォールがめざす《最終解決》
ジャマル・ジュマ インタビュー

2003年9月28日(日)PENGONの事務所にて
インタビュー・構成・翻訳:役重善洋

(以下、[]内は構成者の補足です)

この壁は、1967年[の第3次中東戦争]以来、イスラエルが西岸で行ってきた植民地政策を完成させるものです。この植民地政策は1967年直後、アロン・プラン[訳註1]と呼ばれる最初の分離計画から始まりました。それは、ヨルダン渓谷沿いに入植地を建設することで、西岸をヨルダン等、他のアラブ世界から分離するものでした。次いで1974年、彼らはパレスチナ人の町の目と鼻の先の丘陵地に入植地を建設し出し、さらに1978年、グリーンラインに沿っての入植地建設も始まりました。

【訳註1】アロン・プラン Allon Plan:当時の労働党政権の副首相、イーガル・アロンが提案した、西岸の分離計画。ヨルダン渓谷沿いの土地をイスラエルに併合するかわりに、パレスチナ人の密集地に限り一定の自治を認めるというもの

そして今回、彼らはオスロ合意から隔離壁のアイディアを引き出しました。オスロ合意で彼らは西岸をA地区、B地区、C地区に色分けしました。A地区とB地区は[主として]パレスチナ人居住区です。C地区は入植地やバイパス道路、そして保留地(reservation land)が含まれます。保留地というのは、本来パレスチナ人が将来、農地等として開発するはずの土地ですが、そこでも入植地が勝手に建設されています。

いずれにせよ、イスラエルはこの段階で[西岸からの撤退を]終了し、[暫定的に決められたA+B地区とC地区との間に]壁を建設することで最終解決とすることにしたのです。つまり、パレスチナ人居住区の周囲を壁で囲み、西岸の他の土地をイスラエルに併合するということです。この併合のために、壁とグリーンラインとの間に住むパレスチナ人は、西岸から切り離されてしまいます。

アパルトヘイトウォール建設の進行状況を示す地図

地図を見れば、パレスチナ人が壁に囲い込まれ、ゲットーに押し込められていることが一目瞭然です。まず、東側の壁は、西岸で最大の水源である東部帯水層やヨルダン側を切り離し、さらに、[西側の壁が]ヨルダン、つまり、他のアラブ諸国や他の世界から西岸を分離します。そして、彼らは[ヨルダン側沿いの]肥沃な土地 ── 中東で最も肥沃な土地の一つ ── を奪おうとしているのです。次に、彼らはグリーンライン沿いの土地も奪おうとしています。ここもまた、「西岸の食料庫(food basket)」と呼ばれる肥沃な土地です。

したがって、パレスチナ人[居住区]は、この壁で挟まれた地域で、ゲットー化されることになります。第一の[地図中の(1)]ゲットーには、ナブルス、ジェニン、トゥルカレムが含まれます。ここの壁の建設によって、彼らは、アリエル、ケドミーム、マアレ・ショムロンといった入植地群をイスラエル側に併合しようとしています。

第二のゲットー[地図中の(2)]には、サルフィートとラマッラーが含まれます。パレスチナ人居住区がどれだけ、バラバラの離れ小島に分断されているかがよく分かると思います。ご覧の通り、エルサレムは壁によって完全に抹殺されてしまいます。エルサレムは西岸の北部からも南部からも遮断されてしまっています。

第三のゲットー[地図中の(3)]はベツレヘムとヘブロンを含みます。ここも完全に壁によって囲まれ、管理されることになります。

以上が、西岸の状況です。農業の観点からみると、東西の帯水層が壁によってイスラエル側に併合されることで、パレスチナ人の多くは、資源のない貧しい地域に押し込められることになります。

彼らのヨルダン渓谷へのアクセスは、大きく2つ[アリエルを通るルートとエルサレムを通るルート]あります。このルートにそって、入植地を拡大、集中させているのです。エルサレムだけで20万人の入植者がおり、他の西岸地域にも20万人の入植者が住んでいます。イスラエルからヨルダン渓谷に向かって、入植地群が途切れずに連なるよう、入植地を集中させることで、彼らは非常に効果的なかたちで西岸を分断しているのです。こうしてパレスチナ人が独立国家を持つことができないよう、西岸を完全に管理下に置いているのです。これが、これまでのパレスチナ人の闘争と要求に対する彼らの回答です。私たちの要求というのは、グリーンラインを国境とした独立パレスチナ国家であり、難民の帰還権であり、首都としてのエルサレムです。

ここで、重要なことがあります。この地図[隔離壁の構想]が最初に[公式に]作られたのが1996年でした。ハイファ大学の教授[おそらく、ダン・シュフタンのこと?]による提案でした。彼は、人口問題をコントロールする観点からこの壁の必要を説きました。彼らは、ユダヤ人が多数派を占めるかたちで歴史的パレスチナ全域を確保しようと考えました。彼らは、パレスチナ人の出生率の高さを問題だと考えていました。また、パレスチナの外にいる難民の存在も問題でした。では、どうするか?これは最も重要な問題の一つでした。壁建設はこの問題の解決に向けての前進なのです。

このようにパレスチナ人を壁で囲むと、そのなかは山だらけの地域です。ここは資源も少なく、すでに多くの人が住んでいるため、これ以上人口を増やすことが困難です。10年か15年のうちに、この地域は難民キャンプと同様の過密状態になるでしょう。このようにして、イスラエルは将来のパレスチナ人人口の増加を制限しようとしているのです。彼らが期待しているのは、パレスチナ人たちが、もはや生活できない環境を見限って他に住む場所を探し出すということです。

もう一つの観点としては難民の帰還権があります。たとえパレスチナ人が現在のパレスチナ人地区への「難民の帰還」というアイディアを受け入れたとしても、外からパレスチナ人を受け入れる余地はもうない、ということです。これは、よく言われているような「保安壁(security wall)」ではありません。これはパレスチナ人を管理するための巨大なプロジェクトなのです。

ここで問われるのは、パレスチナ人から農地を奪い、水を奪い、資源のない土地に押し込め、いったいどうやって生きていけるのか、ということです。彼らは、パレスチナとイスラエルとの間のあらゆる交渉、あらゆる問題を、権利ではなく「ニーズ」をめぐる係争に矮小化したいのです。アイデンティティの権利、独立国家を持つ権利をめぐる問題ではなく。それゆえに、イスラエルはパレスチナの経済やインフラストラクチャーを破壊し、ついにはパレスチナ人をゲットーのなかに押し込めようとしているのです。彼らの生活はますますひどいものになっています。これこそイスラエルが望んでいることなのです。そうすることで、パレスチナ人や国際社会にとって、病気や貧困、失業といった、パレスチナ人の人道的状況を解決することが優先課題となり、独立や解放といった権利の問題は遠ざけられてしまいます。イスラエルはそうした[人道上の]問題についてなら話す用意があるでしょう。彼らは、パレスチナ人にここで水不足や飢餓が原因で死んで欲しくないから、水を提供しましょう、と言うでしょう。しかし、それはイスラエルの水ではありません。彼らが支配下においているパレスチナ人の水資源なのです。

彼らの考えていることに、もうひとつ重要で、また非常に危険なことがあります。それは奴隷制度(slavery system)です。イスラエルは、オスロ・プロセスの際、グリーンラインに沿って5つの大きな工業地帯を建設する計画を立てました。これらの工業地帯は、パレスチナ人とイスラエル人、そして他の国の投資によって作られる予定でした。イスラエルはこの計画を変更し、大きな入植地群[つまり西岸]のなかに12の工業地帯を作ることにしました。そうしておいて、彼らは、パレスチナ人労働者のために[隔離壁の]ゲートを開きます。パレスチナ人は入植地で働き、夜は寝に家に帰ることになります。つまり労働力だけ提供してあとは家に帰るということです。

なぜ他の労働力を使わないのか?イスラエルには30万人の外国人労働者がいます。そのほとんどは東ヨーロッパや南アジアから来た、若い人たちです。このことがイスラエルでは社会的にも経済的にも大きな問題になっています。彼らはイスラエル社会のなかに住み、その多くは独身で、不法貿易や性犯罪、性産業への関与が新聞で報道されています。さらにイスラエルにとって最悪なのは、彼らの収入が海外に出ていってしまうことです。一方、パレスチナ人は[ゲットーの中の]彼らの家で寝て、イスラエル内で問題を起こさない上、彼らが稼いだお金はイスラエルに還元されます。なぜなら、彼らはイスラエルの生産物を消費してくれるからです。

以上が隔離壁のアイディアの全容です。パレスチナ人を管理下に置くこと。エルサレムもなければ、国家もない。一種の奴隷制度、つまり、私たちはイスラエルによって管理される労働力であり、住める人口も制限されるということです。